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【DartsBar.02】FiGARO原宿H-14【原宿駅】

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2018.01.26 Fri.

原宿駅

彼のジャン=ジャック・ルソーはこう言った。
「人生は短い。与えられた時間が少ないからではない。われわれは、人生を楽しむ時間をほとんど与えられていないからだ」と。
われわれ人間は社会的生物であるがゆえ、生きていくために何らかの組織や集団(まぁ会社だったりなんだったり)に所属して生きていることが、ほぼ当然な事になっている。社会生活はなにかと制約や時間の浪費が多い。仕事をしないと収入がなく、収入がなければ今夜のビールを飲むこともできない。しかしビールを飲もうにも仕事がありそんな時間がなかったりすることも少なくはないだろう。働いていないと、「働いていない」と他人に指をさされ、一生懸命働いていると、それはそれで他人に仕事人間と馬鹿にされる。遊ぶお金がほしくて働くと、遊ぶ時間を失うこともしばしばである。うまくいかないものだ。
それ故に、われわれは何のために生きているのだろうかと考え、悩むこともあるかもしれない。
束の間であったとしても、自分らしく生きることや息抜きをすること、好きなことをすることくらい許されてもよいのではないだろうか。仕事終わりのちょっと立ち寄るところがあるくらいではあるけれども。

……そうだ、ダーツバーに行こう。

原宿という地名は実際はないそうで、住所的には神宮前となるそうだ。深く調べればとても長い迷路に迷い込みそうなので、原宿は原宿だと思うことにした。存在しない名前の駅というのも中々オシャレである。
原宿といえば、やっぱりオシャレな街で有名だし、竹下通りなんかは中高生や外国人で連日ごった返している。
田舎者の私ももれなく、修学旅行でこの竹下通りにきて興奮して、よくわからないバンドTシャツを買い、クレープを食べながら歩いていたものだ。田舎者の私にはとても憧れた場所だったが、何度も来るうちにそれほど特別な場所ではなくなり、いまや日常の風景となっている。
東北弁や関西弁、九州弁などの日本語のバリエーション以外に、英語、中国語、韓国語、その他全然聞き取りできない言葉など多種多様な言語が飛び交い、国際色豊かで外国の人が憧れるクールな文化の発信地である。彼らが何を求めここに集うのか、私にはわからなかった。文化がちがえばなんでも目新しく感じる。
中学生、大学生の時と変わらず、私は竹下通りを、流れに逆らうことなく前の人について歩き、原宿の裏の方に向かう。
雰囲気が一変して、また別の街のようになる。表参道の方にはそっち側の顔があって、とても面白いところである。

オアシスという表現が適切である

彼の寺山修二は、こんな風に言っていた。
「ふるさとと、そこを『出た』人間との関係は、どっちに転んでも裏切り者になるほかないのだ」
この程度の雪など降ったうちに入らぬと、ふるさとはもっとすごかったのだと思いながら歩いているが、結局人間、冬はいずれにしろ寒い。寒さが足を急がせ、暗い道を進んで一軒だけ輝く明るい店にたどりつく。
「FiGARO原宿H-14」
今回もまた私が個人的にお世話になっているお店の紹介になってしまうのだが、
こんなに寒い夜は出来るだけ「家」のような、アットホームな雰囲気のお店についつい足が向いてしまうのであった。
こちらのお店は本当に都会のオアシスだと思うような、東京砂漠のど真ん中にある印象である。外から見ても、ここだけが輝いているかのようである。帰ってきたというより、やっとみつけたという方が適切な安心感があるのである。
少し上がる程度の階段を登り、ドアを開ける。「いらっしゃい」の前に、名前がわかるお客様だと名前をつけてくれる。
私の場合は「おー!!あまのっち、いらっしゃい」と。これがどれほどうれしいことか。誰かが自分を覚えてくれるという喜びである。
顔見知りの常連さんが二人ほど先に飲んでいるので、その間に座らせてもらった。
常連のお客様が多いお店は、一見入りにくそうではある。
だが、それだけの魅力がお店にあること、毎日のように通いたくなる何かがあることは間違いなく、そしてもれなく常連になってしまう人が多い。……そう、まさに私のように。
カウンターは長く10席くらいか、奥のテーブル席がいくつかあり、トータルで30席になるのだろうか。ちょうどいいサイズ感である。狭くもなく広くもなく、ちょうどいい距離感がスタッフとお客様との間に漂っている。
ダーツはダーツライブが2台。1台は懐かしいライブ1である。
ブルの音なんかでダーツを始めた時のことを思い出すような、レトロ感がある。
私は結構好きであえてこっちで投げていることがある。

スパム&チーズ。まさにビールの大親友である。

こんな寒い雪の日には、なにか温かいものを頂けばいいものの、やはりビールを頼んでしまう。
カウンターにいる常連さんは、ソフトドリンクを召し上がっているようだった。バーだからお酒を飲まなきゃいけないという法律は、少なくとも日本にはない。好きなものをお願いするのがいい。
よほど親しくなりたいと思った瞬間以外は、隣の席の人を詮索するのは野暮というものである。合コンではないので、自分の本名と星座と血液型と職業をはっきり言わなくともよい。あいさつ程度のちょっとした会話でいい。そしてまたあった時に会話が出来てたのしいお酒や、楽しい時間となる。何て素晴らしいんだろうか、バーというところは。
数杯お酒がすすんだころに、最近入った若いスタッフと軽くダーツをする。
先輩風吹かせながら、ダーツを投げているうちに気がついた。私は朝から何も食べていないということに。

……おなかがすいてきた。

ここのお店は何を食べてもおいしいと思っている。お昼はランチもしており、近隣のオフィスや住んでいる人などでにぎわっている。私は一回だけ来たことがあったが、このあたりでは貴重なランチスポットであることは間違いないだろう。
スパム&チーズを頼んだ。ビールには最高のおつまみだろう。なんなら白米だって食べれてしまうかもしれない。
おいしいものは脂肪と糖で出来ているという某健康茶のCMの通りだ。絶対においしいに決まっているのである。
薄く切り分けられたスパムをあぶり、熱々のうちにチーズを乗せる。ただそれだけだが、これがシンプルにうまいのである。口の中で溶けるように混ざり合って、どんどんビールをよこせと口の中からノックしてくる。我慢できずに私は次々とビアグラスを空にしていくのであった。

注文を受けてから作ってくれる。数人でシェアするくらいがちょうどいい量である。

ダーツもしているのだが、スパム&チーズがなくなってなんだか口が寂しくなった。
常連さん一人は帰られたが、常連さんがまた一人、また一人と、人数はどんどん増えてゆく。
そこで、私はみんなで食べようとたこ焼きを頼んだ。「どんだけ食うんだよ」「ダーツしろよ」と思われた方も多いかと思うが、ダーツバーはダーツがあるとはいえ、大前提としてバーである。飲食店なのである。当然ドリンクを飲み、何か食べる場所でもある。
その場にいた常連の皆様とシェアしてたこ焼きを食べた。
熱いうちには熱いうちの、冷たくなっても出汁のいい香りが口の中より鼻の奥の方から脳天に抜けるように貫いてくる。なにより、同じものを一人ではなく、何人かでシェアすることで喜びがある。
「どこで、誰と、誰が作った、何をたべるのか」という事が、食事において何よりも大切である。一人より二人、二人より三人……あまりに多いと話は変わってくるが、すこしでもおいしいものを共有すれば、一人ひとりが少しずつ幸せになって、また明日頑張ろうと思えるのだと思う。
……そういうお店がきっといいお店なんだと私は思うのです。

FiGARO原宿 H-14(フィガロハラジュクエイチフォーティーン)
03-3404-1144
東京都渋谷区神宮前2-19-13 J2ビル1F
JR原宿駅より徒歩10分

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