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【DartsBar.03】Lounge&Bar 兎【目白駅】

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2018.02.09 Fri.

山手線目白駅

イギリスのことわざでこういうものがあるそうだ。
「怒ることを知らないのは、愚かである。しかし、怒ることを知ってよく忍ぶ者は、賢い」
単純に、感情をストレートに表現せず、一回その感情を咀嚼し、整理して表に出さないという事は賢いという事であろうとは思うのだが。
我々日本の社会で暮らすものは、ほとんどの人がこの「賢い人」である。この「賢い人」が多い社会が「成熟した素晴らしい社会」ということにでもなるのだろうか。「賢い人」だというのはうれしいことだが、とにかくストレスがたまるだろうと思う。賢くなんてなくていい、タイムカードを打刻し、職場から出た後くらい、自分に素直になれる場所や空間に向かいたいとは思わないだろうか。
余程このことわざが出来た時というのは、自分に素直な、思ったことをすぐ口にするような感じの、自由な世界があったのかもしれないと思うと、個人的にそれはそれで素敵だなと思ったりした。とはいえ、みんながみんな、好きな事をやり続けたり言い続けたら、衝突が発生し、それはそれでストレスだなと思う。そもそも人間が、人類が持つ最大の武器である「社会」というものが成り立たなくなってしまうだろう。ほどほどにガスを抜きながら、ほどほどに思いやり(我慢という言葉が好きではないので思いやりにします)調度よくみんなが共存しあえれば最高だろうと思いながら、帰路につく。
なんでも調度いいが一番いいのではないだろうか。
何より健康に良くないのは、あらゆる物質の過剰摂取と、ストレスだと思っている。

……そうだ、ダーツバーに行こう。

目白駅はとても静かな駅だった。改札を出て家路を急ぐ人もそれほど多くなく、とても落ち着いた雰囲気があった。
普段は通り過ぎるだけの駅だったのだが、降り立ってみると中々面白い。駅によっては、改札を抜けて出た瞬間に、空気というか雰囲気というか、そういう曖昧なものでその街の雰囲気を感じることが出来ることもある。
目白は、とにかく静かな、それでいてなんとなく温かい空気なような気がしていた。
「目白」という地名の由来は諸説あるそうだ。目白不動尊に由来するとか、三代将軍家光が目黒に対して目白と呼べといったなど、とにかく諸説ある。その中で一番好きな説は、「この地に白い名馬がいた」という事だった。ダーツプレイヤーにとっては大好きな「ホワイトホース」を連想させる説で、歴史云々ではなく、この説が採用されてほしいと思ってしまう。
今回は、一人でダーツバーに行くわけではなかった。友人の紹介で、職場の同僚何人かと連れ立って行く。このコラムにおいて初めての複数人行動だが、よくかんがえると、大体はじめてダーツバーに行く人は、誰かに紹介してもらってから、そのドアを開けるケースがほとんどではないかと思った。きっといいダーツバーを紹介できるプレイヤーは、本当にかっこいいのではないだろうかとも最近考えている。新しい出会いや環境、新しい刺激で、人に感動や影響を与えられる人はそうそういるものではない。しかもスマートに紹介できたら、よりかっこいい。
自分だけでは見つけられないところに行く機会に恵まれるのも、ダーツをしているからこその特権である。

ドアを開けた瞬間に非日常になる

トルストイというロシアの作家がこんなことを言っていたような気がする。
「すべての人は世界を変えようと思っているが、自分を変えようと思っていない」と。
なるほど、つまりワガママだといいたいのだろうか。しかし、まさしくその通りである。自分が変わらなければ、世界は変わらないという言葉を言う人もいる。日常は変わらないからこそ、非日常を人は求めているのかもしれない。
私も自分の愚かさを感じながら、階段を一段一段登りながら、一つ一つ自分の中の日常を削ぎ落としていく……というより脱いでゆく。まるで酔っ払いが、玄関からベッドまで靴下、パンツ、シャツと脱いで歩くように。
ガラス張りなので、階段を登っている最中に店内が見える。とてもシックでオシャレな空間だった。どこか薄暗く、高級住宅街と呼ばれる目白にこんな空間が存在するという奇跡に驚きを隠せなかった。
これぞまさに非日常である。
ドアに手をかけ、開けるころには日常の自分が全部どこかに行ってしまったかのようだった。
カウンターが10席くらい、テーブル席もあり、ソファ席もひとつ。およそ15席くらいだろうか。小さいけれども、大人っぽい、よそ行きの内装のお店ではあるけれど、どこか温かい雰囲気がするいいお店だった。ダーツマシンも一台。初めての人でも、この落ち着いた雰囲気で居心地はいいだろう。

バーテンダーがシェイカーを振っていた。すでにいるお客様のオーダーだったが、カクテルグラスに注がれた中身はおそらくコスモポリタンだったろうと思う。赤く透き通ったカクテルが女性のお客様のもとに運ばれていく。なんてオシャレなんだろう。こんな雰囲気のダーツバーがあっていい。ダーツバーだから大騒ぎというのは都市伝説である。今回はダーツが大好きなやつら数人で伺ってしまったので、大騒ぎしてお店の雰囲気をぶち壊してしまってはいけないなと思ってしまったが、どちらにも対応しているとのことだった。ダーツだけでなく、各種ゲームなんかもあり、みんなでワイワイ遊んで飲むというのもできる。
むしろダーツが二の次なのかもしれない。しかし、店長さんのお話を伺うと、最近お店でダーツが盛り上がっているとのことだった。紹介してくれた同僚もよくここで投げているようだ。レベルはそれほど高くないといいながら、プロやプロレベルから、初心者まで幅広くお店を利用されているようで、とても理想的だと私は感じた。
スタッフやお客様、お店全体で、1台のダーツマシンを囲む。そういう印象が理想的だと私は思うのだ。

オシャレなバーでも我慢できないほどおいしそうな生姜焼きとご飯

同僚何人かで投げるダーツは、それはそれで面白い。レベルも近しく、プロアマ関係ない。本来ダーツとはこのように楽しむものなのかもしれない。勝ってうれしい、負けて悔しい。おいしいお酒を飲みながら、お酒じゃなくても空間や雰囲気を楽しみながら、もう一回勝負しようとか言いながら、気の合う同僚と投げる。新しい発見もあるし「こいつ、うまくなったな」「あれ?お前ちゃんと練習してるな」というその人のダーツに賭ける熱意も感じることが出来る。
だからダーツは素晴らしい。なぜか対戦相手の「人となり」まで伝わってくるものだ。
試合やトーナメント、リーグ戦というのはもちろん素晴らしいが、日常としてダーツを楽しむことも大切だ。
負けのこ(勝ち抜けで、負けた人が継続してゲームをするルール)でダーツして、勝ち抜けしたところで、兎さんを紹介してくれた同僚が言った。

……おなかがすいてきた。

彼は社内で一番といっていいほどの大食漢だが、こんなオシャレなバーに彼のおなかを満たすほどのダイナマイトフードが存在するとは思えなかった。何を言っているんだと、お通しを流し込み、私は大好物の一つであるミックスナッツをオーダーしたが、彼の顔は晴れず、店長に何か伺っていた。
今日は材料がコレとアレでと、メニューではなく、材料や調理方法で話し始めた。こういうお店のいい所の一つというとワガママだが、あるもので何かを作ってくれるという特別感もある。メニューにはないものを提供するお店も多い。
すぐに店内は、シックな雰囲気を残したまま、空腹を加速させるような料理の香りで満たされた。

彼の前に大きな丼のごはんと、山のような生姜焼きが準備された。見てるだけでおなかがすいてくる。
ダーツバーは思った以上に人情的な部分がある。それはきっと、先ほど感じていた気持ちに起因する。
ダーツを通してその人の「人となり」を感じ取ることができる。だからこそ、その人の事がよくわかり、人情的なサービスが可能になる。この人はこういうダーツで、こういう感じの人だと、なんとなくでも感じとっているに違いない。
ダーツバーにはまって、ダーツを投げなくともダーツバーで過ごす人たちはきっとはこういう魅力に取りつかれてしまっているかもしれない。自分のことを認め、察して、受け入れてくれる場所だからだ。

なにより、この都会のど真ん中で、こんなにうれしいことはないだろう。

兎様のロングアイランドアイスティはこちらのレシピのようです。

基本的にビールばかりの私だが、すこし違うものを飲みたくなった。
おそらく先ほどの女性のお客様が飲んでいたコスモポリタンのせいだろう。
何かカクテルを、と思いながらメニューをめくる。おそらく、どのバーテンダーにも得意不得意のカクテルが存在すると思う。作る回数や経験などで分類されていくだろう。だから有名な一杯や、得意なカクテル、オススメのものを伺うと失敗することはすくないと私は考えている。「なにがオススメですか?」とは聞きにくいかもしれないが、聞いた方が一番いい。
メニューで「ロングアイランドアイスティ」を発見し、思わず頼みたくなってしまったのでお願いした。
こちらのお店では、この「ロングアイランドアイスティ」がオススメカクテルの一つであった。
ロングアイランドアイスティとは、4種類のスピリッツ(ジン、ラム、テキーラ、ウォッカ)とコアントロー、シロップをコーラでアップするカクテルである。とてもフルーティではあるが、強いお酒ではある。好きな人にはたまらない事だろう。その認知度のせいか、それともかなり強いアルコールのせいか、ほとんど頼まれる方を見たことがない。実際、私もお酒を作っている時に頼まれたことはほとんどない。なくはないが、ネタで作ってみてという感じがほとんどだったと記憶している。
しかしこちらのお店は、このカクテルが好きな常連のお客様がいて、試行錯誤を重ね、今のレシピにたどりついたという事だった。そういう一杯を私は飲んでみたかった。実際気がつくと、カウンターの端にそのお客様がいて、まさにロングアイランドアイスティを召し上がっていた。毎日のように同じカクテルを作っていけばどんどんそのカクテルの質が上がってくる。作り慣れてきて、一杯にたくさんの気配りが出来るようになる。ブラッシュアップされていくのである。
前出のカクテル「コスモポリタン」も、私がオーダーした「ロングアイランドアイスティ」も、とある大ヒット海外ドラマの登場人物が愛飲するお酒である。なんとオシャレなのだろうか。そのドラマの中に入り込んだ気分さえする(となりで大盛ご飯のどんぶりを食べている大食漢の同僚をのぞいてだが)

しっかりとクラッシュドアイスで、さらりと飲める。レモンの香りがしてとてもフルーティで口当たりはいい。
のどごしで、このカクテルの持つ高めのアルコールを感じ、飲みごたえを感じる。(これを私と私の周りは「固い」と表現する)。この固さがたまらない。自分で作ってもこんなにおいしいロングアイランドアイスティにはならないだろう。毎日のように作っているからこそ、ここまで仕上がるのである。
お酒が飲めないという方には申し訳ない。しかしバーであるがゆえ、私はお酒を頼んでしまうのである。

「どこで、誰と、誰が作った、何を食べるのか(飲むのか)」が非常に大切な事だと考えている。苦楽を共にする同僚たちと、好きなダーツと、おいしいご飯とおいしいお酒……一日の疲れが吹き飛ぶような気持ちになる。もちろん、また行きたいと思わせてくれる腕とサービスが、そこにあるから。
たまには降りたことのない駅で降りてダーツをしてみるというのもいいのではないだろうか。

Lounge&Bar 兎 USAGI
東京都新宿区下落合3-18-2 福田ビル2F
03-6915-3382

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