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【DartsBar.04】First Piece【吉祥寺駅】

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2018.02.16 Fri.

中央線吉祥寺駅

 「人生は芝居のごとし、上手な役者が乞食になることもあれば、大根役者が殿様になることもある。とかく、あまり人生を重く見ず、捨て身になって何事も一心になすべし」
 私たちの国の紙幣の一番高額なものに印刷されている人は、こんなことを言っていたそうだ。
 なるほど、私の稚拙な人生でさえ身にしみるほど的を射ている。何が起こるか分からない、だからこそ先のことばかりに気をとらわれず、目の前のことを一生懸命やるのがいい……ということであろうか。そうすれば、きっとうまくいくといわないまでも、しっかりと人生は進んでいくのだろう。だいたい何が正解で、何が間違いなのかなど、どこのだれにもわからない。進んでみなければ何もわからないのが人生だとしたら、目の前のことに一生懸命になるのだがいいだろう。
正しい正しくないの別で、とりあえず進んでいれば、向かっていれば、いつかたどりつく可能性が高い領域があると思う。
 でもこの言葉は、「人生を重く見る」人に対しての言葉で、おそらく私に代表されるような「能天気な性格」「雑なやつ」は該当しないと言える。私には、むしろ、しっかり考えて目の前のことを大切にしなさいという警鐘のように聞こえてきて、叱られている気がして、とてつもなく気が滅入る。

……そうだ、ダーツバーに行こう。

 吉祥寺は、長らく住みたい街ランキングでトップである。都心から適度に離れており不便な感じは一切ないのに、自然が多く住み心地がよさそうである。調度よいのである。個性的でオシャレな小さいお店、都心とはまた違う東京の姿に、若いころの田舎者の私は感動と興奮を覚えたものである。ファッション誌などで「吉祥寺」というスナップなどを見かけるたびに、オシャレだな―とため息さえ出ていた。何度か足を運んではあちこち歩き回ったものである。いつか住むのが夢だったというくらい、ステータスになりそうな街だった。
 吉祥寺は皆様ご存じのとおり、ダーツが盛んな街でもある。
 街を上げて開催されているトーナメントがあり、近隣にはダーツのお店も、ダーツ台も多い街である。私も何度か参加させていただいているが、完全なるお祭りである。吉祥寺にある開催店舗にて予選を行い、決勝は移動し違う店舗で試合となる。ビッグトーナメントと違い、待ち時間などは街の中で過ごすこともできる。ダーツに関係なようなお店で食事をしたり、ここぞとばかりに買い物に出かけたり、どこかで体力や集中力を回復するために昼寝するのもいいだろう。早くから開いている飲み屋さんなんかでお酒を飲んで「仕上げる」プレイヤーもいる。街を歩いていると、次々知っているプレイヤーや友人、顔見知りとすれ違い挨拶という感じになり、ダーツの街という雰囲気がする。
 街全体でダーツを楽しめるというのも、吉祥寺や、街トーナメントの魅力である。
 こういう楽しみ方ができるのも、ダーツプレイヤーの特権である。

唯一と言っていい、看板のないダーツバー

 「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがある。すごいダーツバーに看板がない、ということわざを追加してもいいのではないだろうかと思うようなお店だ。もちろんご存じの方も多いと思うが、あのレジェンドのお店である。
 以前、違うお店を「秘密基地のようだ」と表現したことがあったが、こちらのお店もそのような雰囲気がムンムンとする。
まず、看板がない。
 外に看板やイーゼルなどでお店の場所を教えてくれるものだが、まったくない。だからかなり迷う方も多いと思う。しかし、入りにくいかもしれないが、一度覚えたら二度と忘れないインパクトがある。こういうお店は病みつきになる。
 いいお店は必ずしも、看板やのれんではない。わかりにくく探しにくいところにあって、ラーメン屋さんなんかは行列を発見して初めてお店の場所を知るという事もある。入りにくそうなオーセンティックなバーと手法は一緒である。案内がない、ドアが重い、しかしそれ故に入ってくるお客様には最高のもてなしが待っている。時間を忘れてそこにいることが出来る。
 本当に大切なものは目に見えない物の方が多い、というようなセリフを何かの映画かドラマか、マンガか何かで見聞きしたような記憶があるが、まったくもってそうだ。
 「隠れた名店」は多い。しかし、隠れているのに、有名なお店でもある。
 駅から出てすぐ、少しにぎやかな通りにでて、ちょっといったところにあるビル。そこの階段を登っていく。大人の階段、とでも呼べばいいだろうか。看板もないので、胸の高鳴りがやばい。期待と興奮である。いくつかのフロアを登りきると、そこでやっとお店を知らせる看板がひとつ。そしてすぐに、小さいけれどきれいな木目のドアある。そのドアをあけると、それこそ下界から隔離された秘密の場所という感じの空間が広がっている。
秘密基地というか……まさに「虎の穴」という感じがぴったりくるお店だと思った。

 お店を入ってすぐに、フラッグと壁一面にサインがぎっしりと書き込まれている。来店したプレイヤーの多さ、オーナー様やスタッフ様の知名度や人気を視覚だけでなく、肌で感じる。
 歴史を感じる。もちろん、お店の歴史である。途方もない数のお客様やプレイヤーが訪れ、切磋琢磨した、汗と血と涙を感じるというと大げさだろうか。
 カウンター席が10席あるかないか、テーブル席もあって、おそらく20人くらいは余裕で入る。そしてダーツ台が2台。ダーツライブ1台とフェニックス1台。私はどちらの台もあるお店がすごく好きである。どちらのユーザー様でも「ダーツプレイヤー」であることにかわりはない。さまざまなプレイヤーがここに集い、己の技を競い合い磨きあったのだろうと肌感覚ではあるが、感じることが出来る。
 そしてなにより「ダーツのルールは一緒だし、することはダーツである」という事を教えてくれるような気がする。
 

 いつも通り、ビールを頼み、ダーツをプレイする。お客様も皆様ダーツがお好きな方ばかりだった。基本的に投げている時間が長い。もちろん、若い方から仕事帰りの大人のプレイヤーまで、年齢層は幅広い。店長が気さくに声をかけてくれ、同じような強さになるようにペアを組んで、マッチングしてくれる。知らない人とのダブルスも面白い。どのくらいうまい人なのかわからない人とダーツをする緊張感というものは己を成長させてくれる。実際に、トーナメントやリーグ戦などに出ると、ほとんどは知らない人とダーツする事になる。いつも同じ人とばかり練習していても、慣れ来て、この感覚は味わえない。ダーツは、そこはかとなく面白いものだ。挨拶をして試合を始めた後も、たくさんの発見が、毎日やっているダーツのルールのなかでさえある。初めて会った人でも、その人がダーツプレイヤーならば、ダーツをすれば、ほんの少しは理解しあえるだろうと思う。同じダーツが好きな者同士、である。
 数セット、我々とお客様とでダブルで試合をする。その間も、スタッフ様がアドバイスをしてくれる。この場合はこうするといい、という戦術的な話から、投げ方のアドバイスまで。こういった指導を受けられるのも、こういうお店ならではである。投げ場でただ投げているわけではない、孤独な感じもしない。温かく成長を見守ってくれるようなお店だ。
 ハンデ戦や、ダーツの後に感想戦をやってくれることも魅力である。ただダーツをやって勝った負けたで終わらせない。どうすれば勝てたのかとか、どうすればよりよくなったかなど、オーナー様スタッフ様お客様間でアドバイスが飛び交う。これはとても大切なことだと、私は思っている。そのままにしない。成長の為に考えて、行動することである。
 初心者の方はこういうお店のお世話になると、成長もはやくダーツをより楽しめると思う。

からあげ定食。家庭的な味を味わえるのもこういうお店ならではである。

 私も個人的にレジェンドであるオーナー様と対戦させていただけた。こんな機会は滅多にない。胸を借りて、存分にダーツを投げたところで、またもや彼(弊社で一番の大食漢である私の相棒)がこんなことを言い出した。

 ……おなかがすいてきた。

 またかと思うが、よく考えると私も少しすいていた。彼は、迷わずメニューの中から「からあげ定食」をたのんだ。注文する前に、他のお客様が「からあげ丼」を頼んでいた時、店内には殺人的なおいしそうな揚げ物の香りが立ち込め、実際店内ほとんどの方々が集中力を欠いてしまっていたからだ。その匂いだけできっと丼飯を何杯も食べることが出来そうなほどであった。
 新しく、彼の為にからあげが揚げられている香りで、定食が到着するまで私のダーツは、心ここにあらずだった。
 シンプルだが、白いご飯とお味噌汁、それにからあげという組み合わせに何一つ間違いはない。
 若いお客様が多いということもあってか、ご飯の量や置かれているフードすべてにわんぱくな印象を受ける。そして、それをかきこむように召し上がるお客様をみて感動さえ覚える。

 今の時代、というか、日本社会が充実してきた頃より、ファーストフードなどで安く早くお腹を満たすことは可能だった。特に私も記憶にあるが、ほとんどお金をもっていない学生など夢を追う若者たちには、お財布の味方になるファーストフードではあるが。
 私もお金のない若い時分(といっても、この歳になってもないけれど)手早く安いファーストフードをとりあえず食べていたのだが。
 こちらのお店の常連の若者たちは違うのかもしれない。「どこで、誰と、誰の作った、何を食べるのか」という事を意識しているのではないだろうか。それにサービスというか、ほとんど思いやりといっていい盛り具合のフードを提供する。ファーストフードに比べたら多少高いかもしれないけど、その分その一杯一食には「何か」が詰まっている。
 だからこそ、このお店がいいという人がたくさんいるのだろう。私はそう思っている。
 こうやってこちらのお店は次々と「ダーツプレイヤー」を輩出していくのだろうと思う。
 とても、愛を感じる。お客様、ダーツ、お店、スタッフに。
 ダーツの街「吉祥寺」に来たら、一度は行ってみてほしいダーツバーであった。

First Piece
東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-2 喜楽ビル4F
0422-24-6528

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