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【DartsBar.06】Ryu's【初台駅】

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2018.03.09 Fri.

京王新線初台駅

かわいい看板が迎えてくれる。オシャレである。

 「世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わることに変わりはない」
 どうやらイギリスの偉い人が残した言葉だそうだが、まったくもってその通りかもしれない。この世に生まれている以上、私たちは少なくとも誰かと誰かの子供である。そして、誰かに育てられてここまで大きくなった。もう少し若い時は、生意気な私なので、一人で生まれ育ったような風だったのかもしれない。しかし実際は、多大なる愛の中で育まれ、感謝しないといけない。自分は自分を大切にしているだろうか?
 気が付けばもうこんな年齢である。お酒の抜ける速度が遅くなった。深酒は禁物である。脂っこいものが苦手になってきた。もたれないように、量を自分で調整するようにもなった。大切な体を無駄に使っているのではないだろうかなどと考えたりする年齢になってきて、何より健康が第一だと思う。若い時には感じなかったことである。
 逆に、この年齢になると、自分と同じ歳の時、両親はどうしていたのだろうかと思いを馳せる。あぁ、私はとっくに小学校に上がり、生意気盛りをスタートさせていた頃だ。両親は一生懸命働いて育ててくれたのに、期待にこたえることもなく、こうしている事に罪悪感さえ感じてしまう。
 毎晩のようにダーツバーからダーツバーへと渡り歩き、深酒をし、好きなものを好きなように食べ、ダーツをしては酔い潰れて眠る。体を大切にしているとは思えない。両親に、家族に申し訳ない気持ちになってくる。いつになったら私は期待に応えられるだろうかと思いながら、改札を抜けてホームに向かう。

 ……そうだ、ダーツバーに行こう。

 新宿駅はまさにダンジョンである。私のような田舎者で、ネイティブ東京の方々と比べると、歩き慣れていないような経験不足な人には、なかなかハードルが高いと感じる。しかし、田舎者よろしく上の表示を見ながらうまいこと乗り換えをする。複雑な分、案内は丁寧だった。新宿ほどの繁華街、外に出ればダーツのできる場所が多いことはわかっているが、今回の目的地はすこし離れた場所である。新宿はまた今度歩いてみたい。
 京王新線の改札を抜けて、乗り換えをしてすぐに初台駅に着く。新国立劇場の方に駅を出る。外に出れば大きなビルに囲まれている印象を受ける。とはいえ、このあたりにお住まいの方も多いのか、帰路の途中という雰囲気の方々が多いのも印象深い。途中のコンビニや、お弁当屋さんなどで買い物をしたり、クリーニング店で受け取りをしている人も見受けられた。
 生活の香りがして、なんだか好感が持てるところでもあった。
 なにより、新国立劇場の存在感がすごい。こういった大きい、格式のあるような劇場に縁がほとんどないせいか、すこし気圧される印象を受ける。田舎者の引け目であろうか。とはいえ、こういったところのそばにダーツがあるというのは、なかなかいいものである。
 ダーツのルーツといわれるパブ文化から考えても、本来もっと身近にあっていいものである。かるく仕事帰りに、飲みながら、食事をしながら、そこにボードがあって、マシンがあって、簡単に楽しめるものであるべきものである。
 なにも構えずにすぐにできるような環境が素晴らしいと思う。ダーツを持っているだけで、どこでもダーツが出来るような環境が望ましい。

まさに家。友達の家に遊びに来たような温かさ。

 新国立劇場を横目に歩いて、当たった丁字路の所に看板があった。看板の横にある階段を上り三階へ。ドアを開けると広くはないが温かい空間が広がっている。カウンター席が5席か6席か、テーブルは二つ、4名様用があるので、20席ないくらいか。席数は少なく感じるが、ダーツスペースは広く取ってある。投げやすい。マシンは2台。もちろん、ライブとフェニックスが一台ずつである。素晴らしい。
 女性スタッフが迎えてくれるが、なんとなく家に帰ってきたような気持ちになるのはなぜだろうか。店内をこの上ない安心感が漂っている。知っている人はスタッフさんくらいなのに。お客様は皆はじめましてなのだが、妙な安心感がある。
 カウンターにはすでに2名ほど先客がいて、私は一番端の席に腰かける。カウンターの受けには、キープしているボトルと割り物とアイスペール、ダーツとスマホとスマホ充電器。どこでも見かける最近のダーツバーのスタイルである。ボトルキープした方が、経済的だということで、こういう小さいお店ではボトルをキープしている方が多い。私のような根なし草、バーポッパーになると、特定のお店でボトルキープが難しい。こうやって自分の根城を決め込んで通える方々がうらやましいと思う事も多い。より密にコミュニケーションがとれるのだから、ダーツがうまくなることも早いだろうし、人生を豊かにしてくれる友達を多く作れる可能性もある。

 早速座ってビールを頼み、ダーツケースからダーツを出す。投げている人もスマホでゲームしている人も、楽しみ方はひとそれぞれでいいと思う。しかし、やっぱりダーツバーはダーツバーである。女性スタッフに一人紹介され、ダーツの対戦をすることになった。こういう心遣いが最高である。その対戦することになったお客様は、最近Aフライトになったということで、ダーツが楽しいのか、どんどん対戦したいという雰囲気であった。もちろん、こちらのお店の店長さんはプロでもあるし、お店にプレイヤーさんもいる。向上心高く鍛え上げてもらうにはうってつけの場所でもある。
 ダーツバーでダーツをする最大の特権は、プロやプロ級の人とダーツをし、多くを学ぶことが出来るという事だと思う時がある。
 投げている間も、お客様の出入りが多くある。皆、軽く一杯だったり、ダーツの練習だったり、各々楽しみ方がある。限られた空間でも、多様な楽しみ方があるというのに驚きを隠せないが、店長さんとスタッフさんの人を楽しませる力に由来するのではないかと思う。

 数セット、ダーツをしたころだろうか、対戦相手がこれから仕事か何かで出かけるとのことで、ゲームを終了し挨拶をした。お店のお客様のダーツにかける思いは強く、上手くなるにはこういう環境がいいだろう。一生懸命にダーツを練習し、仕事の合間なんかに立ち寄ったり、家に帰る前に少し投げに来たり、何事も練習あるのみである。努力は報われるとは限らないが、成功したものは必ず努力している……と某ボクシング漫画の登場人物が言っている。まさに、正解である。立ち止りさえしなければ、必ず目標に近づいている。少しずつでいい、歩みを止めないことが大切である。私も、肝に銘じてダーツを楽しんでいこうと思いながら、自分のジョッキと灰皿、煙草を持ち、席に戻る。戻りながら、あそこでこうだったなんて反省会をしながら。
 席について、出汁のいい香りが鼻にまとわりつき始めた。出汁のいい香りだけでなく、温かい湿気をまとい、冷えたからだを温めなさいという、まるで家族が心配してくれるような香りとでも言えばいいだろうか。お節介にも感じられるが、それでいて温かく素直にならざるを得ない香りである。

 ……おなかがすいてきた。

 おでん、である。最近すっかり春めいてきて、暖かくなってきてはいるが、夜はまだまだ肌寒い。温かいものを少し食べたい気持ちである。大きい業務用おでん鍋が、カウンターにしっかりと鎮座している。木製のふたを開ければ、おでん種がたくさん入っている。
 もちろん選べる。定番の大根を最初に頼み、練り物を二つ、私の大好物の厚揚げも頂き、最後は牛すじがオススメということで頂戴した。
 オススメの牛すじは仕込みに時間がかかっている。私も以前、牛すじの仕込みをしたことがあったが、とんでもない時間と労力の上にこのおいしさは成り立っている。何度煮こぼして、洗って、また煮こぼしてを繰り返したかわからない。もちろん、下ごしらえしてあるものを使えば簡単だろうが、そういったものを提供するには仕入れに結構な原価がかかると記憶している。提供金額も、こちらのように良心的な金額にはならないのではないか。しっかり下ごしらえしているこの牛すじは、お店の愛を感じるほどしっかりおいしくなっている。ここまでするのにどれほどの労力だったか、想像できる。すこしそのまま食べてから、その後にからしを少し乗せて食べる。これまた相性が抜群である。ビールが進むが、ご飯でもよさそうだ。
 この牛すじをつかったうどんもあるようで、次回、必ず頼もうと私は強く決意した。絶対うまいに決まっている。
 練り物は、もちろんおでんの四番打者だと思う。食べ応え、味ともにおでんの中では完璧なエースである。期待をはずさない、タイムリーヒットを量産してくれる。ホームランもあるかもしれない。確実に得点になるという安心感こそ四番打者、おでんでいうならこういった練り物系である。
 厚揚げは個人的に大好きでよく選ぶ。そもそも豆腐がすきなのかもしれない。打順で言うなら、二番で、守備はショートだろうか。こってりもあっさりもどっちも守備範囲の遊撃手である。
 大根はおでんの象徴的存在である。おでんという料理とはなにかを最大限表現し、出汁をふんだんに含んで、まるで芸術である。繊維と繊維の間に閉じ込められた出汁が、咀嚼するたびにあふれ出てくる。注意しないと口の中を火傷してしまいそうである。大根はぎりぎり固形ではあるものの、ほとんどが液体のようなものであった。まさに「飲むように食べるおでんの象徴」である。
 おそらくこの大根の設計者はガウディなのであろう。そのくらい繊細で、細部まで計算されて出汁を含んでいるように感じた。大根とは、おでん界のサグラダ・ファミリアだと、この時私は初めて気が付いた。

 こちらのお店のお客様もアットホームな方が多いというか、気さくな方が多いというか。
 その中のお一方が、ダーツを始めてまだ半年ほどの方で、ダーツにはまり、近所のダーツバーにあまりに通いすぎた為、奥さまに怒られるので、職場の近くでGPSで調べても職場にいるように見えるこちらのお店に通っているという方だった。半年のキャリアで、ここまでうまいのかと思うほどしっかりとしたダーツをされていた。私でも知っているプロが投げているお店で、こちらのお客様はよく投げていたが、通いすぎて奥さまに怒られたそうだ。その気持ちもわかる。私だってきっと既婚者ならこうなるだろうという見本のような方だった。それでGPSで探られているなんて、なんてかわいそうな人なのだろうか。人にはダーツを投げる権利がある。こちらのお客様が、奥さまにダーツ認めてもらえる事を切に願っている。
 でもそのおかげで、職場のそばにこんないいダーツバーを見つけられたと喜んでいた。そういうのもダーツをしている特権だ。ダーツは、ダーツプレイヤーの人生を少しは良くしてくれる。悪いことばかりではない。ダーツさえあれば、ダーツバーに入ることができる。ダーツがなくてもいいが、あった方がより楽しめると思う。
 まるで家だった。友達の家に遊びに行ったかのような錯覚さえ感じる。どんな人でも迎え入れてくれるような、そんな雰囲気と、ダーツが好きで投げている人もいるし、そうじゃない遊びをされている方もいる。多種多様で、お互いに干渉しあわない、何か強制されることもない。とても温かいふるさとのようなお店だった。
 こういうお店を見つけられたプレイヤーは本当に幸せ者だと、心から思った。

 初台 Ryu's
 東京都 東京都渋谷区本町2-4-3 中尾ビル3F
 03-3376-8877

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