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【DartsBar.07】MIG【渋谷駅】

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2018.03.16 Fri.

渋谷駅

 「ただ動いているだけでは、行動とは言えない。」ヘミングウェイの言葉だ。
 引用しておいて何だが、ヘミングウェイはあまり読んだことがない。学生の時、かなり多感な時期に書店で文庫を手に取ったくらいである。そう言われれば、あの頃は「やっている」と言っているだけで、実際何もやっていなかった。正しくは「やれていなかった」のだろう。「やりかたがわからなかった」というのか、誰しも皆そうで、頭ごなしにこんなヘミングウェイのような事を言われれば、気持ちが滅入ったものだろう。「痩せるといってるのに、ダイエットしていない」のと一緒である。
 とはいえ、「動いているだけ」ではだめなのだとしたら、他に何をすればいいのだろうか。考えることくらいだろう。前例でたとえたら「痩せるといった」次に「方法を考える(食事制限、運動など)」そして「ダイエット(行動する)」という事だ。
 パスカルは「人は考える葦」だといった。この意見に私はかなり賛成で、実感している。何か行動する前に、どうすればいいのか考えているのである。私もだが、きっと皆そうだろう。当たり前のような事だが、そういうプロセスで人は行動する。意識しないとわからないことだと、ハッとすることが多い。
 物思わぬ人はいない。よって、誰しも何か「動いた時」にはそれなりの考えや動機がかならず存在し由来する。そう考えている。ということで、今回も私はこう思って、行動するのだ。

 ……そうだ、ダーツバーに行こう。

 言わずと知れた渋谷。毎日ニュース番組などの天気予報で映し出される有名なスクランブル交差点。世界有数の繁華街といわれる街である。もちろん、ダーツの歴史もなかなかで、某日本一決定戦だったあのトーナメントも渋谷で始まったと記憶している。私もよく渋谷でダーツをしていた。一時期はとてつもなくダーツマシンの数が多く、昼夜問わず投げる場所に苦労はしなかった。今でも、渋谷の街にいればどこかで必ずダーツを投げられるが、お店の入れ替わりもあり、すこしさみしい印象ではある。とはいえ、まだまだ健在なのが渋谷である。ほとんどのダーツ人生を渋谷ですごした、思い出の街である。
 渋谷駅周辺のダーツバーで行われるリーグも存在し、街トーナメントも復活を遂げた。ダーツの街、復権の狼煙とでも言おうか。少なからず長い時間過ごした街なので、多少良いように言ってしまっているかもしれない。小さい玄人向けのダーツバーから、飲み会帰りに軽く二次会感覚でダーツを楽しめる場所まで、街は本当に多種多様である。ダーツショップも多くある。用品調達に困ることは少ないだろう。老舗があるので、渋谷でダーツに困ったらそこを訪ねてみるといいと思う。私もよくお世話になっている。
 駅周辺は再開発の途中で、街はいま変貌を遂げようとしている。見上げれば、見慣れた景色に建築中のビルが見える。新陳代謝よく、新しい街に変わろうとしているのかもしれない。それでもダーツの文化は残り続けてほしいと思っている。

シンプルだが、ダーツに真面目な店。

 ハチ公改札を出て、写真や動画を撮る人でごった返すスクランブル交差点をかき分けながらセンター街へ。今はバスケットボールストリートという名前だったか。あまりしっくりきていないので、そのままセンター街と呼んでしまう。その道を宇田川交番まで進む。平日の夜なのに、まるで「人の川」のようだ。そしてその川は氾濫している。肉横丁の外の呼び込みがお客を捕まえている所を尻目に、東急ハンズの方に進む途中にあるビルの5階に今回のお店がある。私も慣れ親しんだお店で、よく来ている所でもある。エレベーターで上がってすぐにドアがあり、店内に入れる。まだ早い時間だったのか、店長とオーナーが軽くアップをしているのを見かける。いつだって臨戦態勢なのだ。練習はなにより大事である。お店のツートップがその姿で教えてくれている。この二人のダーツにファンも多いだろう。
 店内にはライブ台が3台、ハードが1面ある。広い店内だ。カウンターも長めで結構座れる上に、テーブル席も多い。リーグ戦が2試合あっても、他のお客様が投げられるスペースは存分にある。40名くらいはいけるだろうか。ハウスなんかも行っているが、それでも一杯になってしまうのがすごい。
 台間もしっかり取って、隣の台がいてもいい感じにストレスにならないように設計され、一部にはしっかりオッキも取り付けてある本格仕様である。まるで、ビッグトーナメントの壇上のような佇まいである。

 こちらのツートップとは以前よりとても親しくさせていただいていた。同じ街で投げている仲間とでもいおうか。こちらの店長は、私がまだ上京したての時によく一人で飲んでいた立ち飲み屋さんの店長さんでもあった。あの時、私に串を焼いてくれ、ビールを注いでくれていた人なんだと思うと少し感慨深い気持ちにもなる。エモい。
 懐かしさがあり、そのお店にもあったおつまみ「ねぎバカ」をお願いし、いつも通りにビールを大きいサイズのジョッキで頂いた。ピリッと辛く、ビールの吸収率があがる。一口一口、なんとなく、昔ダーツを始めて間もない頃の気持ちを思い出していくようだ。母親の味のようなものというか、昔よく食べたものなどを食べると、その当時の思い出が蘇ってくるようなものである。上手くなりたい、強くなりたいと願った20代の頃というか、毎日闇雲ではあるが練習していた日々が懐かしい。ゲーム代でお金がなかった私がこの「ねぎバカ」を食べて飲んでいた頃、こちらの店長もオーナーも、そういう思いで毎日練習していたのだ。お二人とも、現在はプロとして活躍されている。
 お金がないなら、飲まなきゃいいじゃんと言われそうだが、それはその通りなので、こちらから返す言葉はない。

 「鶏ハムの棒々鶏風」を頂く。珍しい事に、今日の私はたくさん食べる。やわらかく、またソースとよくからんで、ビールが進んでしまう。この二人は私の事をよく知っているので、こういう作戦なんだと思いながら頂く。お腹がいっぱいになった私は、本当にダーツが入らなくなってしまうのである。ご理解いただける方も少なくないと願うが、私の周りは「別にそんなことない」とお腹いっぱい色々食べる。私が純粋に小食だからだろうか。でもおいしい。まんまとその作戦にはまってしまう。いや、はまってしまってうれしいくらいだ。気が付けばビールが無くなっていく。まさにビール泥棒である。盗まれたビールを補うように注文した。ここでビール惜しさに、ご飯を頼んでしまうと、より私のダーツは入らなくなってしまう。「空腹と満腹、どちらがダーツに効果的か」という議論はまたの機会に誰かとしたい。
 この二人はダーツにとても真剣で、食事をしながらあれやこれやとダーツの話がとまらない。バレルの話から、ソフトの話やハードの話などダーツの話が切れない。お二人ともダーツを愛しているのである。私もうれしくなって、ついつい食べ過ぎしゃべり過ぎである。お箸を持ったり、ダーツを持ったり、交互にしながら、気が付けばどんどん楽しい時間が過ぎていく。

 途中、立ち上がってボードを前にしてダーツのスローや、最近の自分のフォームなんかの話をしながら軽く投げた。おもにハードダーツ、スティールダーツの話だった。ハードが常設されているところは素晴らしい。ハードを投げられるお店を探している人も少なくないだろう。そんな人の為に常設しているのである。どこまでもダーツに真面目な二人だ。ダーツをプレイするという意味ではこんなに整った環境はあまりないだろう。もちろんゼロではないので探してゆきたい。
 三人で熱く語って投げているうちに、私は思い出してしまった。

 ……欲張って頼んでしまった最後の一品、最強のフードメニューを。

 「オムそば」である。オムレツ界の最高傑作と名高い究極のメニュー。
 ここまで食べて、まだ食べるか。自分でもそう思ったが、ダーツバーの楽しみの一つに「食事」は絶対にある。他の飲食業態では味わう事の出来ない、特別感。こちらの料理番は、本物の修業を積んできた職人さんである。箸を使い、黄色い膜を破るとなかから湯気とソースの香りが、鼻孔に飛び込んでくる。どうにも満腹なのだが、飛び込んできた香りでまた食欲を掻き立てられる。まるで麻酔のようなものである。マヒしてしまい、満腹感を忘れさせる。どうして今日に限って私はこうも食べてしまうのだろうか。
 むさぼりつくように頬張る。啜る。上あごから脳天を突き抜けるソースの香りに、そのまま椅子ごと後ろにのけぞり、倒れてしまいそうで危ない。これほどおいしいオムそばに出会ったことがない。太ることを心配したが、きっと焼きそばにはキャベツともやしがたくさん入っていたので、カロリーはゼロなんだと思った。私の好きなお笑い芸人さんの最近のネタで「カロリーゼロと言い張る」というのがあるが、まさにその理論で、「野菜と一緒だからカロリーゼロ」で安心して食べられるという結論に至った。

 今回のお店は、シンプルに入りやすく投げやすい。投げ場のメンテナンスをしっかりしプレイヤーの為の店づくりを積極的に行っている。ごく稀にセグメントが破損していたり、距離がなんか合わないなんてことを感じたりするお店もあったりなかったりだが、こちらは完璧に設定されているので安心感がすごい。大半が女性客で初心者の方が多いというのも面白い。それだけ、ダーツを教える事が上手い人達の集まりでもあるのだろう。もちろん、上手い人はプロだって訪ねてくるお店でもある。とてもオールマイティな客層をお持ちで、ダーツの初心者からプロまで幅広く対応できている。
 プロのサポートが特典で付いているトーナメントを開催場所だったり、ハードでもハウスを行えるように準備を進めているようでもあり、どこまでもダーツに真面目なお店だった。通常のハウスももちろんあるので、構える必要性はまったくない。初心者だって楽しめる。なにより日常、通常の投げやすさと言ったら、なかなかないレベルでいい。教えてくれる人も上手い人もたくさんいる。同じくらいのレベルで、切磋琢磨するライバルもすぐに見つけられるだろう。
 それだけでなく、料理がとてもおいしい。メニューは不定期であるが変わる事が多い。何を食べてもはずすことがないということがすごい。
 きっとダーツバーなんてと思う人は驚くだろうと思う。自分よりもダーツに真剣に向き合う人たちに出会えば、きっと、世界は変わる。自分というものがしっかり認識できる。この人たちはもしかすると自分よりダーツがすきなのかもしれないと思った時、きっと安心して通う事ができるだろう。
 ダーツバーなんてと偏見を持っている人ほどギャップに耐えられないだろう……どこまでもダーツに真面目なダーツバーが存在する事に。やはりダーツバーは入ってみないとわからないことが多いと断言できる。

Darts BAR MIG
東京都渋谷区宇田川町12-7 エメラルドビル5F
03-6416-4739

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