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【DartsBar.08】Liberty Bell【駒澤大学駅】

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2018.03.30 Fri.

田園都市線駒澤大学駅

 ジェームス・ディーンはご存じだろうか。私の父くらいの年代だと、それはそれはかっこいい男だったそうだ。ファッションを真似してみたり、映画を観たりと憧れの対象だったようだ。そんなスーパーイケメンは若くして亡くなってしまっているようだが、その年齢からは考えられない名言を残していた。
 「成功できない人は、成功するのが怖いんだ。成功には恐ろしいほどの責任がつきものだ。みんな、そんな責任は引き受けたくないのさ」
 成功とは「何を持って成功」というのかは分からないのだが、彼はその「成功」を手に入れているからこそ、こういう言葉を世に残す事ができたのだろう。私が言ったところで、聞いた人は三歩歩いたころには忘れているだろう。説得力とはそういうものである。
 我々は皆、幸せになるために生きている。その選択、すべてが自分の幸せの為にされているものである。成功し幸せを、大なり小なり享受することもあれば、選択に失敗し、後悔をすることも多い。そのすべての選択の前提は「自分がしたいかしたくないか」「自分が良い方にいくかどうか」「自分が幸せになるかどうか」である。
 結局スーパーイケメンが言いたいのは「人間は幸せになる事が選べないところがある」という事だろう。その前述の選択の後者「失敗し、後悔すること」を避けたく、あえて「幸せになる選択をしない」という選択肢を選んでしまう事もあるだろう。それはそれで「幸せになる選択肢」とは言えないまでも、「後悔しない選択肢」「不幸せにはならない選択肢」という事になる。ただ、幸福になる可能性を捨てているにすぎないが。
 最近知人によく「コラムのマクラ(冒頭部分)が長い!!」と言われている。このくらいにして、私は今夜も、どっちに転ぶかわからないながらも、こういう風に選択する。

 ……そうだ、ダーツバーに行こう。

 渋谷駅で田園都市線に乗り換える。いつも行かない所、乗らない電車に乗るのはドキドキするものだ。アプリなどでどこでどう乗り換え、どのくらいの時間がかかるか確認したり、その過程そのものが旅である。なじみのある駅を少し通過して、駒澤大学で降りる。事前に行こうと思いネットで地図を見ていたのだが、降りてみると思ったより街のど真ん中という印象だった。目の前の246に沿って歩く。上も下も車が走っている道路を歩くなんて、田舎者の私には信じられない経験である。とはいえ、初めて歩いているわけではないのだが。東京という街は上にも下にも忙しい気持ちになる。
 駒沢公園に向かうように道を左に曲がり、閑静な住宅街や駒澤大学の前を進んでゆく。ここを曲がると急に森の香りがしてくるような気がする。東京を縦横無尽に突き抜けている道路が真後ろにあるのに、ここからまた別世界な気持ちになる。東京なのだが、東京という感じがしなくなった。夜なのでそんなに景色が分からないのが残念だ。夜行性の私は人生を半分損しているような気さえする。とはいえ、夜は夜で素晴らしい。もう半分を楽しもうと決意しながら歩く。
 歩いている時間が夜だからか、学生らしき人を見かけてはいない。しかし、同じ方向に歩いている帰宅途中の人が多い。このあたりにお住まいの方々はかなり多い。大学や公園のそばの道は夜だから、閉まっているお店は多いものの、昼間はすごくオシャレでにぎやかなのだろうという雰囲気が伝わってくる町並みだった。オシャレなカフェやパン屋さんなども並び、昼間のにぎわいの残り香を感じる。逆に、ここにダーツバーがあるのかどうかの一抹の不安が生まれるが、私の掌の中の地図は、まぎれもなくそこを目指している。
 思ったより歩いた気がするが、目の前に「ダーツ」とストレートに書いてある看板を見つけて安心した。ここが、ダーツバーだと一発で分かった。こんなに親切な看板は生まれて初めてだった。

誰が為に「自由の鐘」は鳴る

 どストレートの直球に、ダーツと書いてある看板のふもとにイーゼルがあり、誘われる。ガラスの扉が入りやすく、すんなり取っ手に手が伸びる。ドアの先には階段がある。ゆっくり上がって行くと、外観からは想像もできないほど大きい空間がひろがり、ダーツが4台、その他たくさんのゲーム機が並んでいる。少々薄暗い店内にゲームやダーツマシンが光り輝いている。ダーツバー放浪を始めてから記事にしたお店の中で、ダントツに大きいキャパである。計数は不可能。余裕で50人から60人入ると思う。なんならちょっとした大学のサークルのパーティ一個分くらいと言おうか。
 ハリウッド映画に出てくるプールバーさながらの雰囲気を持っていた。とはいえビリヤード台はなく、テーブルがいくつも並び、店内は走り回れるほど広い。(実際に走り回ってはいけません。他のお客様のご迷惑になります。)本棚に漫画もたくさんあった。純粋にくつろぐのにも最高の空間である。
 カウンターには、今回お呼び立てしてしまった方々が「来るのが遅い」と言わんばかりに椅子を引き、私たちを呼んでくれる。その他にもお店のリーグのチームの方々が、思い思いにダーツやゲームを楽しみくつろいでいた。行った事のないところに行くのが不安な時は、行った事がある知り合いなんかを頼ってみるのもいい。ダーツ業界にはいいお店を紹介してくれる人たちがたくさんいる。そしてみんな、優しいのだ。
 すぐにビールを頼みカウンターの皆様と乾杯した。とても広く、それでいて落ち着く雰囲気があり、それぞれ店に入った人は自分の楽しみが必ず見つかるそんなお店だと、私はすぐにわかった。
 

 とてもダーツに真剣な印象も感じた。リーグのチームメイト同士で練習をする光景も見受けられる。リーグの途中経過なども掲示し、共有している。これはすごくいいと感じた。リーグ戦をやっているお店かどうかの判別は一般的に難しい。なぜなら、そういう掲示物が少ない事が言えるだろう。現在何勝何敗でどのくらいのポイントで現在何位なのか……というものが、店内に掲示され、まず最初にチームメイトに共有される。そして対戦相手は次回いつでどこなのかとわかる。スケジュールを調整して試合を楽しみにする感じがある。
 そして、リーグのメンバーではない人にとってもいいことだと思うのだ。どんな状況なのか、情報開示することによって、リーグが、チームが閉鎖的な印象をなくしている。開催日にお店に来ると試合している。「本日はリーグ戦により貸切です」という事が存在しないくらい広い店内である。見学が出来る。非常にオープンである。参加していない方でも、興味が沸く方もいると考えられる。すべての人ではないとしても、ダーツを好きな人なら興味が沸いてくるはずである。参加するにはどうすればいいのか、お店の人に確認もしやすい。リーグのシステムを聞くこともできれば、新しいチームを作って出てみようと思ったり、お店のチームの人との間を繋いでくれたりするだろう。「仲間意識が強すぎて、他のお客様にあまりいい印象を与えない」などと議論になるかもしれないが、ポジティブに考えれば、そういう普及活動になる可能性もある。
 仲間意識が強いからリーグ戦に出ているというは、真逆の発想な気がするのは私だけではないと信じている。閉鎖的な印象がまったくない、オープンなチーム運営だと感心してしまった。

 呼び立ててしまった某プロプレイヤーと昔からの知り合い、そしてお店のLINEグループで私がいることを知った友人も駆け付けてくれて、少しだけにぎやかになる。もちろん、ダーツもする。変則的な配置で4台あるのだが、とても投げやすい。そして気が付くと、テーブルには若い大学生ほどの年齢のカップルが座り食事をしていた。このあたりに暮らす大学生だろうか……私ももっと若いころにダーツに出会っていればと思ったりもしたが、自分が一気に歳をとった気持ちになったので止めた。
 もちろん某プロはダーツの普及に力を注いでいる。ダーツを教えることも多いそうで、ダーツに愛を感じた。きっとこちらの店に行けば会えるだろう。
 私も、某プロとシングルスで投げさせていただいた。その間に食事をしていた若いカップルがダーツを始めて、彼氏と思われる男性が、一生懸命彼女にダーツを教えている。なんと微笑ましいことだろうか。ダーツには男女の仲をグッと近寄らせる魔法の力があるのは、皆さまもご存じだと思う。デートでダーツをしてみるのもオススメだ。上手くいくかどうかは、その人次第ではあるのだが……。

 ほとんど食事をしなかった私だが、お店の代表であるバーテンダーに「何かオススメのものを」と頼んでいた。私は飲みたい気分だった。なんとなくおいしいお酒が飲めるような気がしていた。
 彼が私に作ってくれたお酒は「ボストンクーラー」だった。
 名前に「クーラー」と付くカクテルは、わかる人には名前を聞くだけでレシピが分かるものである。そもそもクーラーとは一般的にスピリッツにレモンかライムと甘みを加えて、ソーダやジンシャエールなど炭酸で割る飲み方である。そしてボストンクーラーのベースとなるスピリッツは「ラム」である。
 口当たりは甘く、ライムの調度いい酸味とともに侵入してくる。のどを通過するときにジンジャエールの刺激とアルコールを感じて飲みごたえになる。とてもおいしい。バランスがちょうどよかった。少し気になったのが、ロングカクテルだった気がしたのだ。ロックグラスでいっぱいいっぱいに作られている。それぞれのお店、それぞれのバーテンダーに、各々のスタイルがある。何か言おうものなら、野暮ったくて仕方ない。恥ずかしくてその場には居られないだろう。……今思えば、こうやって書いている私は野暮ったいのかもしれない。
 蘊蓄や講釈垂れるつもりはまったくないのだが、なぜラムをつかっているのに、「ラムクーラー」ではなく「ボストンクーラー」と呼ぶのかご存じだろうか。
 独立戦争後のアメリカ、ボストンはラム酒の貿易で栄えたそうだ。ラム酒で有名になった事から、このカクテルを「ボストンクーラー」と呼ぶようになったという説がある。実際どうかはわからない。お酒につけられる名前など、結局飲んだくれの酔っ払いがつけるものなので、正確な事はきっとだれにもわからないのだ。
 仮にこの説が正しいとした時に、独立戦争とアメリカといえば……察しの良い方ならすぐに連想できるものがある。

 ……そう「自由の鐘(The Liberty Bell)」である。

 このボストンクーラーは、お店の看板カクテルという事になる。だからきっと、私が「何かオススメ」と指定せずに注文した時に、このカクテルを思いついたのだと思う。まるで私が試されているようである。いや、それもバーにおけるコミュニケーションの一つかもしれない。私がかつて同業者だった事もあってのことだろうか。ただの酒飲みの蘊蓄おじさんだからだろうか。どっちかはわからないが、この一杯にメッセージが込められている事は感じ取る事ができた。
 お酒を飲まない方には申し訳ない話ではあるが、お酒が飲めるからこそわかるバーの良さやメッセージや哲学を感じる。この一杯に、お店のすべてが込められていると言っても過言ではない。自由の鐘「リバティーベル」を模したロックグラスに、いっぱいに注がれたボストンクーラー。この店には、過ごし方や楽しみ方の自由がある。そういうメッセージなのだと受け取った。
 甘く酸っぱい自由の味。飲みほした後、頭の中で鐘のなる音がしたような気がしたのだが、それはただ単に私が酔っ払っていたからだとは信じたくなかった。
 そのままダーツで某プロに負けてしまった事は忘れてしまおう、そんな楽しい夜だった。

 リバティーベルさんは、今年で9周年を迎えるそうだ。それだけの長い時間、近隣の方々やダーツプレイヤーに愛されているお店でもある。9年もお店を続けるには大変な努力が必要だったと容易に想像できる。しかし努力だけでお店は続かない。愛されることこそ、一番の秘訣なのだ。
 長く続くお店というのはそれだけで良店の条件の一つになると考えている。
 過ごし方も自由。漫画を読んで過ごしてもいい、ゲームをして過ごしてもいい。もちろんダーツプレイヤーにはこれ以上ない環境である。投げやすく集中しやすい。
 イベントも周年ハウストーナメントも開催される。こういうイベントのタイミングこそ、お店がいかに愛されているか見る事が出来るだろうと思う。そして、新しい出会いもたくさんあるだろう。もちろん、お店に通うきっかけになるかもしれない。そういう情報があったら、可能であればのぞいてみるといいだろう。どれほどの愛がそこにあるかわかるはずだ。

Liberty Bell
東京都世田谷区駒沢4-1-23 パークサイドヒルズ駒沢2F
03-6805-4930

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