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【DartsBar.10】north cafe【尾山台駅】

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2018.04.13 Fri.

東急大井町線尾山台駅

 「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という言葉が有名だが、実際ビスマルクはそのままの発言をしていない。彼が長ったらしく話した内容を要約すると、こういうことだったということだった。私も話が長く、クドい事で嫌われることも多いが、要約すると私の場合は「楽しかった」「面白かった」「最高だった」の一言で済んでしまう。誰かに何かを伝えるという事はとても難しいことである。
 以前の記事でも書いていたと思うが、ダーツというのはその「過程」を楽しむ事が多いのではないだろうか。結果だけ追求したら、パーフェクトや9ダーツがすべてである。
 しかし、人生がうまくいかないのと一緒で、ダーツだって毎回完璧に入るわけではない。大半の人は9ダーツを経験せずにダーツ人生を終えるかもしれない。私もそうなのかもしれない。私は10ダーツの経験があるが、9本目では本当に緊張して手が震えて、体がすべて心臓に占領されてしまったかのように動悸がして、足が震えて宙に浮いているような気分になった。もちろん、9本目を大きくアウトボードして、私を見ていた人も大爆笑だった。……目指してはいるのだが、いつか9ダーツ出してみたいと強く思い日々ダーツをしているのだが、完璧なダーツが毎回続くとそれはそれで面白くなくなってしまいそうでもある。経験はしてみたい。しかし中々そうはいかない。
 だからこそ、その過程である「けずり」や「アレンジ」が面白いのである。技術的に上手くなっていく過程や、そのゲームの、レグの削り具合や、アレンジ、そしていいスローと失敗してキャッチしてしまったスロー、その過程がドラマである。ダーツとはなんてドラマティックなのだろうか。

 ……そうだ、ダーツバーに行こう。

 我々はいつの間にこんなになってしまったのだろうかと思うほど、手のひらの板に頼りっぱなしになってしまっている。電車の中で私が想像していたルートと、手のひらの上の黒い板は違うところを指していて、私は珍しく違和感を覚えて、乗り換え案内の指示を無視して、池袋で下車して副都心線のホームへと向かった。
 今まで完全に信頼していたスマホのアプリを裏切ったのだ。自由ヶ丘で乗り換えて、尾山台に着いた頃、スマホが提示していた到着予定時刻よりも10数分早い時間で改札を抜けられた。スマホがない時代、私は、私たちはどうやって乗り換えて、行った事のない所に行っていたのか、完全に思いだせなかった。便利は人間を不便にしていくのかもしれない。尾山台駅の改札の外は珍しい事に石畳の道路だった。どこかで見たような気がしたが、思い出せない。多くの人が同じ方向に向かって家路を急いでいた。静かであるが、誰もいないわけではない。最早スマホの地図さえアテに出来ないと思い、看板を探しながら人の流れに乗って歩いた。たまにGPSが定まらす、手のひらの中の地図上で、自分を指し示すアイコンがあっちこっちと瞬間移動したりするのがストレスだと思う事もあったので、もう見るのをやめて自分の足と目でお店を探すことに決めた。
 改札から出て2~3分歩いたくらいですぐに見つかった。初めてくるのに初めてくる気持ちがしない懐かしい気持ちになってきた。

 ここは、オンラインダーツのショップ検索では上がってこない、伝説のお店「north cafe」である。

ダーツの「ストリート感」を肌で感じるバー

 このコラムを読んでくれている方々はほとんどが、ソフトダーツをメインにプレイされていると思っている。どこか新しいお店を探す際などは、おそらくググって、ショップサーチや店舗検索に引っ掛かったお店を、比較検討し、行く店を決めたり、どんなお店か情報を収集するだろうと思う。リーグ戦の際は、行った事のないお店の場合重宝するものである。
 今回伺ったノースカフェさんは、オンラインのソフトダーツマシンがない。なので、必然的にショップサーチや店舗検索で引っ掛かる事はない。しかし、地図は出てくるので、安心してほしい。もともとこちらのお店の噂は聞いていたし、有名でもあった。一度来てみたいと思っていた。
 お店の階段を二階に上ると小さい看板がひとつあり、ドアを開ける。全体が温かい木目調で、足を一歩踏み入れるだけでなぜか安心する。照明もやわらかく、居心地の良さを感じてしまう。壁や店内から、何に由来するのかまでは判別できないまでも、歴史を感じてすこし圧倒されるような気持ちにもなった。
 カウンター席が少し、おそらく4~5人座れば終わる。テーブル席も手前にひとつ、奥にまたひとつあって、席数自体は少ないが、特筆すべき点は何より、投げ場の広さである。ハードボードが4面、オフラインのスペクトラムが1台。ボード間も広く取っていて投げやすそうな雰囲気が、安心感の一つなのかもしれない。
 この日はハードのリーグ戦だったのでテーブル席は、試合に参加する方々が座っていた。

 オーナー様はとても気さくな方だった。私はカウンターに誘われ、そこに腰かけた。カウンターに座ると、より投げ場が広く感じられた。もちろんビールを、一番大きいサイズでお願いした。リーグ戦に参加する人たちが投げるダーツがボードに、コスッ、コスッという音を立てて刺さる様子が心地よかった。ソフトダーツマシンの音も楽しく、心地いいものだが、ハードはハードでまた趣があってとてもいい。
 ハードが4面あるが、すごくよくメンテナンスされている。劣化すると割と早い段階でボードを交換される。やはり刺さらないとカウントされないハードだからこそ、ボード命である。ボードのコンディションには細心の注意がはらわれているようだ。ハードを始めたいという方々には是非足を運んでもらいたい。
 親友や職場の先輩が、私が来ると先に一報入れてくれていたので、挨拶も早々にダーツやお店の話で花が咲いた。とても気さくだった。本来ならば私がインタビューする側のはずだったのだが(というかほとんどインタビューをしないのだが)逆にインタビューされている状態になり、少し恐縮した。オーナー様はいろんな事に興味がおありだと伺っていた。変な奴が来るときっと楽しみにされていたのだと思うと、また少し恐縮してしまった。好奇心旺盛な方だ。ダーツやお店の話だけでなく、会話は多岐に渡った。
 先にローストビーフとオニオンスライス、次にイカ焼きとピクルスと、オーナー様はビールの相方を選んで出してくれた。ローストビーフは一気に平らげてしまい、写真も残っていないが、肉厚に切られ、添えてあったオニオンスライスとも相性は抜群で、ビールがスピード違反の現行犯で、私の体に逮捕されてしまった。
 イカ焼きとピクルスのコンビには少々驚いた。この二つは一緒で合うのかどうか半信半疑だったが、実際イカ焼きに調度いい、浅く漬かったピクルスで、面白いマリアージュとなった。
 もちろん、ビールをまた大きいサイズでお願いしてしまった。目の前で作ってくれる食事というのは、なぜこれほどまでにおいしいのだろうか。おつまみの選択にもセンスを感じてしまう。居心地の良さとはこういった小さな幸せの積み重ねで決定するのではないだろうか。

 リーグ戦が始まると、私も観戦した。ハードのリーグ戦はとても心地いい。音とリズムがいい。まるで何かの音楽のようである。プレイヤーがスローラインに立つと、一気に静寂する。リズムよく三本投げ終わり得点をコールする。そのあとに、味方は賞賛したり、励ましたり声をかける。相手は、これから投げる味方を鼓舞する声をかける。またスローラインにプレイヤーが立つと、両チームともに一気に静寂する。
 これが交互に行われ、ハードの試合というのは見ている方も面白い。
 どことなく、ストリート感を感じた。ストリート感というと、スケーターがスケボーにのって走り回る感じや、閉店後の銀行や建物のガラスを鏡の代わりにダンスの練習をしている若者なんかを想像するかもしれないが、そういう事ではない意味で、だ。お店や、ハードのリーグの試合の雰囲気から感じ取れるものにその要素があると感じ取っていたのかもしれない。
 説明しがたいので調べてみた。ウィキぺディアによると、ストリートとは「ファッションデザイナーやアパレル企業がつくり出すファッションではなく、それぞれの時代・社会や文化を背景に、街に集まる若者たちに実際に支持され、発信されるファッションのこと」と定義されていた。
 今の、いや昔からの日本のダーツの文化を背景に、集まるプレイヤーが支持し、お店を愛している感じ、ダーツを愛している感じが「ストリート感」として去来するものがあったのかもしれない。とても「リアル」だった。ダーツのリアルというか、そもそもダーツ自体が内包している何かなのか。
 ダーツとは、きっとこうあるべきであると思わされる。もしくは本質的に、こういうことであるということを、言葉にしなくともお店全体で表現しているのではないだろうか。それが、私の感じた「リアル」さと「ストリート感」なのかもしれない。お店はシンプルな作りなのに、感動するドラマが垣間見えたような気がした。

 お店が少し落ち着いた頃、オーナー様もホームチームの応援にやってきた。
 この方はダーツ界の生ける伝説の一人である事を説明するまでもない。私のようなペーペーでさえ、存じ上げている大御所中の大御所である。その伝説は思った以上に気さくで恐縮もしたが、このスタイルこそがお店そのものである。ご自身がお店を体現しているのではなく、お店が伝説を表現しているのである。
 これほどまでに温かく、深いお店に感銘を受け鳥肌が立った。なにより、ホームチームの応援でご自身が掛けている言葉こそが、トリガーだった。
 「大丈夫だ!!後ろにまだたくさんいるぞ!!」
 この言葉がとても印象に残った。ダーツは、大体において個人競技である。リーグ戦でさえ、シングルスがある。そんな中、自分の責任でと悔やむ事もあるだろう。後ろにいるはず仲間を信じて、自分のダーツをするという事を考えられなくもなってくるだろう。
 今一度、オーナーのいう「後ろにたくさんいる仲間」を思い出す事が出来たら、ナーバスになることなく、試合を進めていけるはずである。チャンスは悲観するものにはやってこない。なぜなら悲観していたらすべてが悪い方に考えられてしまい、思考が停止してくるだろう。可能性を見出すこともできない。
 時に数字やアレンジが分からなくなることもあるだろうが、落ち着けば問題ないだろう。なにより、仲間が、お店があなたを信じているというスタンスでいてくれる事こそが、ダーツプレイヤーとして幸せな事ではないだろうか。
 以前【リーグノススメ】というコラムを書いたが、まさにその内容である。気が向いたらもう一度読んで頂けると嬉しい。
 http://magazine.s-darts.com/c…
 手のひらの板で、調べた世界もいいものだが、そこで調べた情報だけでは分からないものも多い。Webマガジンでコラム書いている分際で何を言い出すかと言われかねないが、私もそうだが、調べて分かったつもりになっている事が多く反省する。
 ダーツバーは行かなければ分からない事が多い上に、調べても出てこない所もある。何かのサイトに掲載されている写真などで感じる雰囲気以上のものが「リアル」にある。是非、足を運んでみてほしい。

 飄々としている伝説が、あなたを、新しいダーツの世界に導いてくれるかもしれない。

north cafe
東京都世田谷区尾山台3丁目22−8 石井ビル2F
03-3705-0555

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