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【DartsBar.20】BARREL 町屋店【町屋駅】

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2018.07.06 Fri.

東京メトロ千代田線町屋駅

 「カエルは自分が棲む池の水を飲み干さない」……伊坂幸太郎の小説に出てきそうな諺があったものだ。実際私は、伊坂幸太郎の作品の一節だと信じて疑わなかったものの、意味がわからず調べると、どうやらネイティブアメリカンの言葉だとか、インドの諺だとか、色々出てきてしまい驚いた。
 意味としてはそのままなのかもしれない。カエルは両生類で、どちらでも一応生きていけるだろうが、どちらかと言えば水の中の方が生活しやすいだろう。実際どうかは生物に詳しい人に聞きたい。私のような酔っ払いの話では当てにならないだろう。
 意味としては、察するにこうだろう。「カエルは、自分が生きて行くのに必要な環境を破壊したりしない」という事である。自分にとって不都合な事はしないという事であるが、様々な角度からその意味を感じる事が出来る、とても懐の深い言葉だなと感じる。それだけ周りを大切にしているという事である。自然や、環境、他の生物など諸々を大切にして、生きていくものであるということだろうか。しかし、逆に警鐘にも感じられる。実際に私たち人間が行っている地球上の環境破壊に近い発展の事を揶揄しているようなきらいもある。前回のコラムでも述べたように、これもこれで人間の、地球の自然の姿の一つとも言えなくもない。
 とはいえ、真理としては、この言葉のとおりかもしれない。私も日頃、自分の棲む池の水を飲み干してしまうような人生を送っているのかもしれないな、などと思って、猛省の必要があるだろう。

 ……そうだ、ダーツバーに行こう。

 新しいお店というのはいいものである。もちろん内装、外観もとても新しく新鮮で、すがすがしい気持ちになるだけでなく、そのお店を作った人の気持ち、哲学、心配りの一つ一つが見えてくるような気がする。もちろん、お店の名前や、スタッフの人選、設置台数やメニューなどみるところはたくさんあるのだが、そういう事ではない何かが見えてくる気がするのである。夢や希望もさることながら、オーナー様や作った方が伝えたい事、表現したかった事が詰まっている。
 山手線をぐるり、西日暮里で下車する。西日暮里と言うところは、思ったよりも電車の乗り換えが多く方々へ行けるものなのだと初めて知った。私は東京の生まれではないので、実感が沸きにくく、土地勘もあるようで、何となく程度であるのだろう。なにより自分が普段使ったり、良く使うようなルートには自信があっても、まったく知らない所へ向かうとなると結構難しいものである。
 千代田線で一駅行った町屋で下車する。商店街もあり、駅から出ると都営荒川線が見え、なんだか嬉しい気持ちになる。そのまま道なりにどんどん進んでいく。高層マンションもあり、きっと利便性が高い所だから、ここから都心に通勤する人も多のだろうなと思い、田舎者よろしくキョロキョロと周りを眺めながら進む。

 ……ガード下を抜けて、完全に商店街が途切れていた静かな所に、バレル町屋店様はあった。住宅街と言うほどでもないが、マンションやちょっとしたビルの静かなエリアにある。きっと周辺の人もご利用になる可能性があるだろう。バレル町屋店様は懐かしい雰囲気のある佇まいだった。生活しやすそうな雰囲気で、私がこのあたりに住んでいたとしたら、ダーツバーがあったら、もしくはダーツが出来るところがあればと思う場所にあって嬉しい。
 到着したタイミングで、店長が外に看板を出していた。すぐに声をかけて、挨拶した。天気が良かったからだろう、店長は眩しそうにこっちを見て、私たちを認識して、すぐに笑顔になった。

店は「人」で出来ている。関わる人たちの熱い「想い」

 店長とは以前より知り合いであった。私がまだ渋谷でお店をしている時からなのでまだ数年ではあるが。お店にも一度来てくれて、試合会場で合えばあいさつする程度ではあったが、何かとお顔をお見かけする事が多く、一方的に親しみを感じていた。
 すぐに案内してくれて私たちはドアを開けて中に入った。とても広い。何となくだが30坪くらいあるのではないだろうか。とても広い店内だ。何となく店内には既視感があり、見覚えのある内装だと思った。どうやら私はお酒の飲み過ぎで、とうとう頭がイカれ始めているのかもしれないと自覚した。今日の暑さのせいかもしれない。
 ダーツマシンは3台あり、ライブ一台とフェニックスが二台あった。台間も広く、店内は本当にゆったりとしてストレスはみじんも感じられない。カラオケもあるようでモニターもあった。入口から隠れるようにソファ席があり、テーブル席も2、3席、カウンターも調度いい所にあって6人から7人はかけられるようになっている。ダーツマシンがよく見えるように出来ていてるバーカウンターに、店長は慌てて入って行った。開店したばかりの忙しい所にお邪魔いてしまい、申し訳ない。
 この日は梅雨明け直後の炎天下、少し急いで来てしまった夏が、町屋を焼いているに等しいほどの気温で、全身の毛穴から汗が滲みでていて、のどがカラカラだった。店内はとても涼しかったものの、体の中に籠もってしまった熱はどうにも排出する事が難しかった。……もちろんビールをまず頼んだ。
 昼間から飲むアルコールが美味しい理由がある。それは背徳感が増長させてくれている他ない。陽も高く、こんな真昼間にビールを煽る幸せは何物にも代えがたかった。ビールの冷たさで通ったところがハッキリと理解できた。

 この日は、他のお店などではハウストーナメントなどが多く開催されていた事もあって、少し落ち着くだろうとみていた店長だったが、次々とお客様はやってきた。お忙しいところ申し訳ないと、ビールのお代わりを頼んだ。とにかく広く、天井も高く、解放感があって、投げやすい。バレル町屋店様は、お昼の14時にオープンし、夕方の18時までは1000円で投げ放題である。プレイヤーにとってこれほど嬉しい事はないだろう。
 そもそも、だ。ダーツスポットでお昼から営業しているところというのは少ない。皆、仕事終わりに来る事が多く、昼間はあまり集客が見込めないかもしれないという事でもあるだろう。しかし、この多様化する現代において、すべての人が皆、朝起きて夜寝る生活をしているわけではない。もちろん、休日が土日祝と当たり前に決まっている人だけではない。その日こそ働かねばならぬ人もいるのである。そういう人たちは、ダーツを投げる環境が限定されてしまう。たとえばプロのいるお店なんかにいって、ちょっとしたアドバイスをもらう事もできなかったりする事があるだろう。

 バレル町屋様は、違う。まさにそういう人たちの為のお店と言わんばかりにオープンが早い。そして夕方までは投げ放題である。単純に計算して、4時間ある。私たちのような修業中の身で10分で1ゲーム1クレジットを使うとしたら、1時間で6クレジットになる。この投げ放題は私たちの為にあるようなものである。練習してうまくなりたい人は利用しない手はないだろう。店長様はもちろんプロである。とても親切な人だから、教えるのもうまいに違いない。道理で昼間から混んでいるわけだと、合点がいった。店内はダーツを楽しむ、練習する人で溢れかえっていた。
 ビールだけではもったいないと、私は思い切って「ジャックコーク」を頼んだ。人は誰に邪魔されるでもなく、思いのままに美味しいものを飲食する事に喜びを感じるのだと思う。
 そんな中、下の床材やマシンの後ろの壁紙などを見ていて、フラッシュバックするかのように、様々な事を思い出した。このお店の内装、外装などを担当した職人さんに心当たりがあったのだ。トイレに入っても、壁を見ても、床を見ても、カウンターを見ても、どこを見てもその丁寧な仕事を思い出させてくれる。

※バレル町屋店様の写真ではありませんが、内装を担当した職人さんはこちらです

 ……私には思い出深いダーツバーがひとつある。そのお店はもう閉店してしまい存在していないのだが、そのダーツバーの内装を担当した職人さんの仕事だとわかり、感動したのである。
 道理で既視感がある雰囲気であった。私の頭が、暑さでオーバーヒートしたわけでも、私がアルコールでくるってしまったわけでもなかった。壁紙、床の選択から何から何まで思い出深かった。いい仕事とは、その人の人柄まで写すのだと、私は実感した。とても丁寧で義理と人情に厚い、尊敬する人の一人だった。
 後にお店で働いていた友達の、職人としての師匠であり、彼も今回手伝っているとたまたま会った時に伺っていたが、ここの事だったのかと思い感慨深い。
 ダーツバーだけに限った話ではないが、ひとつのお店が出来上がるまでに、たくさんの人が関わり合い、その人たちの想いや願いが込められている。たまたま通りがかりに見かけた気にも留めないようなお店ひとつとっても、私たちでは想像しえない苦労や努力、想い、願いが詰まっている事を私は信じて疑わない。

 お昼すぎで、夕飯までにはまだ早い時間帯ではあったが、炭酸とアルコールで刺激された胃袋が何かを求めていたので、私はタコライスを頂いた。オープンしたてのお店で、店長が「とりあえず」と用意していたメニューにはないタコライスだ。まだ他にガーリックシュリンプもあるそうだが、次回頂くことにして、今回はタコライスをお願いした。タコライスとは季節にもぴったりな逸品である。
 駅に近付けば当然飲食店は多いのだが、バレル町屋店様は少し離れている。歩いて数分。コンビニはあれど、飲食店は少ない環境である。確かにこのあたりに、ちょっとしたカフェ飯みたいなお店があると、とても生活に潤いが出てくる人もいるだろう。お昼に少し散歩がてら、ダーツとランチなんて最高じゃないか。
 スプーンで思いっきり一口頂いた。南国を思わせる香りがする。タコスとご飯が混ざり、濃い味にレタスとトマトで清涼感を与えてくれて、こんな常夏の気候にはぴったりである。溶けたチーズがまろやかさが全体をラッピングして、清涼感の他に、コクやうまみも追加してくれて、私を小旅行に連れて行ってくれる。ここは沖縄かもしれないという錯覚まで覚えるほどに。きっとガーリックシュリンプを食べれば、ハワイに意識を飛ばせるのかもしれない。
 ランチ営業はまだ開始されていないが、これでメニューに追加され、投げ放題しながら食事も楽しめるとすると、我々プレイヤーにとって最高の環境が整う。昼の投げ場において食事は悩み事の一つでもある。ここならば一切の心配はなくなるのだと、確信が持てる。昼に練習する時の悩みとして、皆思った事があるだろう。
 食事するために外出しなくてはならず、戻ってくると台が埋まってる。そんな事はもう考えなくていいのである。

 何気ない雰囲気を装いながら、そこに見え隠れするお店が持つ「想い」「願い」。とても温かい。床材ひとつにも心がこもっている。壁紙だって、カウンターだって、テーブルセットにだって、一つ一つ感じる事が出来るだろう。それは私たちプレイヤーが求めているものがほとんどである。おそらく今回のバレル町屋店様のオープンに関わった方の大半がダーツに精通しているか、ダーツが好きな人たちだという事はすぐにわかるし、確信が持てる。……もちろん私が知っている人もいるというのもあるのだが。
 ダーツバーに限らず、どのような形態のお店で合っても必ず、人の想いが込められている。ダーツバーは、我々プレイヤーにとってはホームであるし、そういった想いも感じ取りやすいかもしれない。
 店は「人」で出来ている。オーナー、店長、スタッフだけではない。お店の場所を提供する人達、お店の工事をした人達、お店にマシンや用品を納める人たち、食材やドリンクを納める人たち、そしてもちろん、客として通う私達もお店を形成する「人」の一部である。
 そんな想いをたくさん感じる事が出来るバレル町屋店様は、これからもメニューやサービスを増やし、私達が行きたくて仕方がないようなお店になって行くに違いないと確信がある。たとえ一人でも、このような想いの詰まったお店に行けば、孤独を感じることはないだろう。
 同じような気持ちでここを作った人達の痕跡が、あなたを温かく包んで癒してくれ、時には背中を押してくれるのだから。

 BARREL町屋店
 東京都荒川区荒川4-36-2 1F
 03-6806-6632

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