【トレーニングノススメ】Takahisa SEKIGUCHI【AMA Dartsフィジカル編】
~ダーツにトレーニングは必要か~
一概に「練習、練習」といっても千差万別である。ダーツにおいては特にわかりにくい。投げる練習なのか、それとも狙う練習なのか。自分は、初心者の頃どのようにして上手くなっていっただろうかと考えたり。それはもう完全に「レーティング」を参考にし、「今日は01スタッツを5点あげる」「クリケは3本キープ」とかわかりやすく掲げてやってはいたが、達成できない場合はさらにドツボにはまってゆき、レーティングをきっちり1落としてしまうなんて事もあっただろう。
私もダーツを投げながら日々、どうすれば上手くなるだろうか、どうすればもっと思ったとおりに入るようになるだろうかと考えながら生活している。もちろんほとんどのプレイヤーもそうだろう。これでいいというレベルに達する事はない。
毎日お昼休みに軽く投げたり、日々投げたり、リーグに出たりを繰り返し、そのために練習をするにも時間が足りない事も多いだろう。どうにか効率よく上手くなることや、トレーニング出来ないものかと頭を悩ませていた。
……そんな中だった。弊社の別事業部の人が「ダーツに関する論文があった」といっていた。内容はとても衝撃的だった。もちろん、私自身にも心当たりがあるのだから驚きである。
ある仮説の立証のための実験で「ダーツを教えると、ダーツが下手になる」という結果が出ていたという事がわかったのである。すぐに私は、この方を捕まえて話を伺う事にした。
昼休みや仕事終わりなどにダーツをしていると、たまにじっと見つめている彼は、関口という。弊社のフィジークオンラインの担当でありながらスポーツトレーナーの経歴も持つ人だ。会社で毎日すれ違う事もあり、違う部署ではありながら、なんとなく親しみを感じていた彼に「トレーニングとは」と聞いてみたかったのだ。もちろんダーツ関係ではないので、知らない人ばかりだと思うが、彼は元都内整形外科勤務で、スポーツ系専門学校非常勤講師もされている「アスリートの専門家」である。体もムキムキで、私はひそかに「弊社のバキ」と呼んでいる。
もちろん「ダーツをスポーツ」としてとらえるなら、トレーニングが必要であるのは間違いない。
……それにしても弊社って、いろんな人がいる。話を聞いてみたい人はまだまだいる。
そして、難しい言葉が多く理解に時間がかかったが彼は丁寧に教えてくれて助かった。すごく純粋で、真面目で、気持ちのいい男だなと、感じていた。
「競技中において睡眠時間が短いグループと十分に睡眠をとったグループでは、睡眠時間が短いグループのほうが圧倒的に怪我の確率が多かったという研究結果があります。だいぶざっくりとした広義になってしまいますが、これを競技中の集中力やコンディションの差だと考えると、ダーツの練習においても集中して質の高い練習をするためには休養や睡眠をしっかりと取り、コンディションを整えておくことも大事かと思います」
……それはわかっているのだが、ダーツプレイヤーの大半にとって中々難しい。しかし肝に銘じておく必要があると思っている。
~ダーツを教えるとダーツが下手になるのは本当か~
--ちょっと前に聞いた「ダーツを教えると、教えた人が下手になる」っていうのは本当ですか?
「そういう実験があったんです。何気なく見てる分にはいいんですが、観察し、分析すると自分にそれが取り込まれるという事らしいです」
--つまり「下手な人を観察していると、自分にそのフォームが移る」という事ですか?
「そうですね。また実験ですが、アフリカの海も川もない所の部族を水辺に連れてゆき、ジェットスキーをさせたというのがあります。一方には『とりあえずやってみて』と急にさせて、もう一方には動画でプロがやっているジェットスキーを十分に見せてからやらせたそうです。結果ですが、後者(動画を見ている方)がジェットスキーにすぐに乗れるようになったという。ダーツにも同じ事が言えると思います。見て、観察して、分析して、イメージをつかむ。さっきの話の、逆もまた然り。上手い人のダーツをたくさん見て観察して、分析すれば、自分にその情報が取り込まれ、うまくなるのが早いという事になります」
--たしかに経験上、ダーツを教えた後に上手くいかない現象が起きていると実感してます。でもすぐに戻ることもあるのですが……
「多分、技術の底辺があればそこで下げ止まります。あとで話しますが『脳』にも深い関係があって、ある一定まで下がれば、それ以下までは下がらない。調子が良い悪い程度の落差になると思うので、安心して良いと思います(笑)」
--全然関係ないようですが、たまたまゴルフをテレビで見てから投げると調子よかったりする事もあったりして
「リズムだったり、その他の運動だったりも影響するでしょうね。だから駅のホームで、あまり上手くないフォームで、傘ゴルフしているおじさん見ると、リズムが狂ったり、下手になっちゃうかもしれません(笑)」
関口は「学ぶ」という言葉の語源についても言及していた。
「学ぶ」とは「真似ぶ」から由来していると彼は言う。まず見て、真似てから、やってみる。これが「学ぶ」と言う事である。
まずは「上手い人のダーツをたくさん見る」という事が大切だ。手っ取り早く上手くなるためには、これが一番時短で、簡単に出来る。移動時間、電車の中、バスの中などで、トッププロの試合などをたくさん見るといいという事でもある。もちろん、間近で見る事もいいに決まっている。いいイメージを付けると、それだけいいパフォーマンスにつながると考えられるのだ。
~胴体部の安定と足の裏について~
「……よく体幹トレーニングとかやってますというアスリートいますが、それはそもそもまだ『アップ』の段階で、準備です。そこからしっかり鍛えて行かないと。ダーツの動きの作用に対する、反作用に対抗する筋肉を鍛えれば胴体部分が安定し、おそらくダーツをしっかり飛ばす事が出来ると思います。なのでこれこそ胴体部を鍛えて、高い体幹部の安定性を持たせることが重要だと思います。」
--なるほど。他にはどこが。
「これを見ていただきたいんですが(いそいそと紙を出す)『足の裏』ですね。『足の裏』が非常に重要だと感じます。足の裏には『メカノレセプタ』という自重を感じる所がたくさんありまして……その荷重センサーは土踏まずの部分だけ極端に数が少ないので、足のアーチ(土踏まず)の部分が低くなっている扁平足の状態だと、構えの状態で自分の重心の位置が正確に把握しにくくなる可能性があります」
--俺、偏平足なんですよ。ホラ(見せる)
「ほんとですね(笑)あとですね、アーチ(土踏まず)が下がって扁平足になってしまうと、スネの骨が内側に捻られるように動きます。そうするとそれに合わせて大腿の骨も内側に捻られ、それにより骨盤の向きが内側へと変わるという運動連鎖が起きます。同様に、アーチが高すぎるとスネの骨は外側に捻られ、大腿の骨も外側に捻られて骨盤も外側へと開きます。
これらはその時に履いていた靴にも大きく影響を受けるかと思います。かかとがすり減っていたりとか。こういった姿勢に関することや環境的な要因も土台の安定性やフォームの再現性、パフォーマンスの正確性に影響するのではないかと思います」
--(実際にやってみる)……ほんとだ(笑)
「そうです。だから靴にも気を付けないといけないという事になります!!そして私に仮説があるのですが『ハイヒールは意外と安定する』という説です!!」
--プロの試合ですとそれはルール上履けないです(笑)
「そうなんですか!!!(驚きと落胆)」
--でも、女の子でたまにヒールじゃないとダーツが投げられないという人もいますし、アナガチ間違ってないかと(笑)
「ですよね!!(大きな喜びの表情)」
あのフィルテイラーも「まずは試合に出る靴を」とポートレートインダーツの中で話していた事を思い出した。関口がいうとおり、ほとんどの体重を前足に乗せている状態のダーツ。本人の感覚では「前80%後ろ20%」と言う事があるが、スポーツトレーナーの視点から見るともっと多くの割合で前足に体重を乗せているようにも見えるという。
よって、ダーツにとって「靴を選ぶ」という事は本当に大切な事である。もうそれは「バレル」「セッティング」に匹敵する程に大切な要素なのである。
~大脳と小脳の関係と運動の自動化~
「天野さんは『運動の自動化』というのをご存知ですか?」
--いや、知りません(笑)
「たとえば自転車に乗れるようになるというような運動は、幼いころ練習して乗れるようになったかと思います。それからしばらく乗っていなくとも、乗れるじゃないですか?」
--はい、乗れます。
「それを『運動の自動化』といいます。本来は大脳が一つ一つ考えて行っていた運動ですが、出来る限り考えないで体が動かせるように、小脳がシステム化してくれます」
--ダーツのフォームや、その他のスポーツの動きもすべてですか?
「そうです。なので、基本的には小脳に自動化してもらうように、たくさん考えながら運動していくといいですね。反復練習とかを繰り返して行っていくと自動化されて行きます」
--便利ですね(笑)
「ですが弱点もあります。自動化されている運動は、200m/sec……つまり0.2秒以下でフィニッシュする運動はフィードが出来ないという事です」
--ん?(笑)どういうこと?(困惑)
「つまり、動きだしちゃったら止まらないってことです(笑)」
--スローに入った瞬間「あれ?ちょっとちがう」となっても戻れない事がありますが、そういうことですか?
「そういう事です!!なので、間違った動きをしてしまっても、小脳は運動を止められません」
--なるほど……よくあります(笑)
その小脳の自動化を利用して上手くなるにはどういうトレーニングが理想ですか?
「とにかく大脳に刺激をいれて、新しい情報や正しいと思われる情報をたくさん小脳に送って、その動きを自動化させるという事が一番だと思います。なので…もちろんたくさんいいダーツを見る、分析する観察する。そして『真似する』鏡でシャドーするのも大事です。体に覚えさせるという事は小脳の自動化を進めるという事です。ゆっくり動きを確認しながらがいいでしょうね。見て分析して、同時に自動化を進める。
あとは練習場所を変えるなんてのもいいでしょう。天野さん、たくさんのダーツバーに行かれているみたいなのですごくいい環境かと思います。場所が変われば、大脳に刺激が入ります。そこでの情報を蓄積していけばいい。
あとは僕はわからないんですが、ダーツを代えるというのも、効果的ですね。セッティングとかもですか?代えたら、大脳に刺激が入ります。なのでそういったアプローチもアリではないかと思います」
~山本五十六の言葉~
彼は「最後にこの言葉をお願いしたいです」と言っていた言葉がある。私もその言葉がすごく好きである。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
率先垂範を促す言葉であると取れる。とても良い言葉で、出来ないながらも思っている言葉である。とはいえ、それほど誰かに指導するような事はないので、本当に思っているだけである。
きっと関口は私が誰かにダーツを教える事が多く、それに悩んでいるに違いないと思ってくれたと思うが、私はもう誰かにダーツを教えるような機会は、とんと減ってしまった。でも、もしかするとまたどこかで「教えてほしい」と言われる事もあるだろう。その時の為に、いや日常生活においても、心に刻んでおきたい。
誰かに何かを教えるという事は、自分の理解も深めることにつながるのだから。
まっすぐ純粋で、真面目という文字をその筋肉隆々な背中に刻んだような男だ。やはり強い男は優しい。丁寧に理解できるように説明してくれた。スポーツトレーナーとしての視点は、ダーツがスポーツである以上必要な事である。
本当はもっとたくさんの話を聞いていたのだが、またいつか書きたいと思っている。
ダーツだってスポーツなのだ。場所がただバーだったりするだけで、実際は他のスポーツとなんら変わらない。
関口はまっすぐ力強い眼差しで一生懸命私に説明してくれた。本当は居酒屋あたりで酒を飲みながらがいいのだが、
「アルコールは筋肉に良くない」と弊社社長中村が言っていたので、プロテインでも飲みながらになってしまうかもしれないなと思って、少し笑ってしまった。
実は効果的なトレーニング方法も伺っている。画像がそうであるし、実践しているのは私だ。ダーツに必要なフィジカル、メンタル考えてゆけば、きっとアナタのダーツがより楽しくなっていくに違いない。
具体的なトレーニング方法はまた機会を見て書きたい。
ダーツはスポーツなんだといいながら、私はまた今晩、ビールを傾けている事だろう。
『フィジーク・オンライン』
http://physiqueonline.jp/