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FARGO

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2016.08.16 Tue.

THIS IS A TRUE STORY.

”これは実話である”

そう前置きされると何故か「おっ」と思う人が多いのではないでしょうか。

他にも、実話に基づいた物語である、とか、事実を基に構成されたフィクションです、とか、これは実際に起きた事件です、とか、似たような前置きをよく見る。

事実は小説より奇なり、という言葉もあるように『実話』には創られた物語(フィクション)にはない魅力があって、きっと、人はそこに惹かれてしまうのだ。

こんなことが実際に起こるんだね、なんつって、感動的かつ奇跡的な展開の実話が私も大好きです。

好きなんですが、しかし、ちょっと待った。

それらは果たして本当に『実話』なのだろうか。

本当に本当?

マジで?

ウソでしょ?

私は騙されませんよ。

「わざわざ実話だっつってんだから実話だろうが」

「それを疑ってかかろうなんて、あなたには人の心というものがないのかしら」

「いいえ人間じゃない、この人は鬼畜よ、鬼畜」

ならば、例えばこういうのはどうだろうか。

私は今リンゴを齧っている

これから、正真正銘、紛う事なき事実、現在の私の近況をお伝えする。

私は今、これを書きながら、その一方で、真っ赤なリンゴを齧っている。

……どうでしょう。

こう書くと、これを読んだ人は「コイツ、腹減ってんのか」とか「何故リンゴを?」とか「書くか食べるか、どっちかにしなさい」などと思うだろう。

しかし、実際のところ、私はリンゴなど齧ってはいない。

暴露してしまうと、手元にあるのはリンゴではなく友人から頂戴した高級ブランデーなのである。

こいつで晩酌するのが最近の日課なのだ。

今日は生憎バスローブを切らしているので仕方なく素っ裸で仁王立ちのまま飲んでいる。

フルチンで突っ立っていると『イワシ』という名前の飼い猫(雑種)が「構っておくれよ、ストリーキングおじさん」とばかりに私の足元を右往左往した。

全裸タイムの邪魔なので部屋の外へ蹴り飛ばすと、イワシは「ウキーッ、ウキキ!」と恨めしそうに鳴いて、どこか他所へ行ってしまった。

……どうでしょう。

続けてテキトーに書いてみたが、私は普段、全裸で高級ブランデーを飲む日課などないし、サルのように鳴くややこしい名前の猫も飼っていない。

では、そんなウソを書くなや、このボケが、とお怒りの方もあるかもしれない。

様々な情報に対する思い込み。

情報発信する側は正直に正しいことを伝えようとする、きっとそうに違いない、悪い奴はいない、と、受け手はそうあるべきものとして、その情報を受け取りがちである。

それを逆手にとりまして、世の中に発信されている情報というのは、実は不確か(極端な話、真っ赤なウソ)である可能性を秘めているものなのです、ということをわかりやすくお伝えしています。

本当に正しい情報(実話)を得ようと思ったら、そこに他人を介在させるのではなく、自分の眼で実際に見なければリアルはわからないのである。

そんなこと言ったって、いちいち自分の眼で確認してる時間なんかないっつうの、と言うでしょう。

ではどうしたらよいか。

実際にその眼で見なくてもいいけど、世の中に転がる各種の情報が本当に本当かどうかは、あなたがあなたの判断で決めてくださいね、ということでもある。

FARGO

思い入れが有り過ぎて前置きが長くなってしまった。

今回は『THIS IS A TRUE STORY.』から始まる1996年の映画作品をご紹介。

雪深い田舎町で起きた偽装誘拐、殺人事件と、それを追う警察官の物語。

コーエン兄弟(製作、脚本、監督)らしいブラックさとユーモアに溢れていて『本当に実話なのだろうか』と考えながら観ていくと、より味わい深くなる作品である。

一瞬だが、とあるシーンにダーツマシンも映り込む。

劇中の設定は1987年なので、その頃ダーツマシンは確かに存在しており、風景としてのリアリティはちゃんとある。

残念ながらダーツマシンの種類まではよくわからない。

どこかのリサイクルショップで見かけたことがあるかも。

犯人についての「お前が言うな」と思わず突っ込みたくなる絶妙な台詞。背景にダーツ。

これが実話

もういいぜ、って言われそうだけど。

ワシントンの話、ありますよね。

かのジョージ・ワシントンが子供の頃、悪戯心に桜の木を切ってしまい、ウソで誤魔化すことをせず、父親へ正直に話したところ、怒られるどころか褒められた、という例のアレ。

だからウソはつくな、正直であれ、というけど、そもそもその話が作り話(ウソ)だからな、という矛盾。

もう一つ、オオカミ少年の話も。

ウソを続けていると、誰からも信用されなくなる、信用されたきゃ日頃から正直であれ、という教訓の話。

それこそがイソップの作り話(ウソ)である、という矛盾。

矛盾に対しては釈然としない部分もあるけれど、世の中は、人のためになるウソや、人を笑わせたり感動させるウソには寛容なのだ。

だから、ストリーキング、じゃない、ストーリーテラーたる小説家やシナリオライター、作家は重宝される。

突然、見知らぬジイサンバアサンの家に電話をかけ「俺だよ、オレ、オレオレ」などという風に、人に迷惑を掛けるウソは、色々な人に迷惑を掛けるだけでなく自身も牢屋にぶち込まれますので注意しましょう。

むむ、どっか身近で聞いたことある話だ……。

同じウソでも、紙一重の差で天と地ほども変わってくる。

私も気を付けよう。

などと、オリンピック放送を横目に観ながら、今これを書いている。

手元には、缶の発泡酒。

それが私の実話。

台風来てるし、もう寝よっと。

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