ザ・エージェント

ザ・エージェント
1996年に日本で公開された『ザ・エージェント』という映画がある。
スポーツ選手の契約交渉を担当する契約交渉代理人をモチーフとした映画だ。
この映画がどういう映画か、単刀直入にいうと、とにかくヒロイン役のレネー・ゼルウィガーがかわいい。
この作品でブレイクした後、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』でその人気と地位を確固たるものにした女優、レネー・ゼルウィガー。
見ようによっては、ちょっとブスに見えないこともない。
そんなところがリアリティと親近感を醸し出し、若かりしころの私は映画の内容そっちのけで、こっそりとレネー・ゼルウィガーに想いを馳せた。
こんなキュートな人間がいるのか、と。
最近になって、またハリウッド映画作品に復帰したが、寄る年波とは残酷なもので、過去のナチュラルな美しさはすっかり損なわれてしまっていて、おまけに整形手術を重ねたせいか、今や『ザ・エージェント』の頃の面影など残っておらず、レネー・ゼルウィガーに熱狂した元若者としては、悲しいことこの上ない。
お互いに年を重ねたもんだ。
失われてしまった時間は戻らないが、映画を観返してみると、大好きなあの頃のレネーは、まだ映画の中で確かに生きている。
「映画って本当にいいものですね」と、日曜洋画劇場の終わりに淀川長治さんが言っていたが、本当にその通りだ、素晴らしい、さすが淀川さん、ブラボー。
余談だが、淀川さんがかつてまだご存命だったころ、自分には学がないけれど、映画館が学校代わりであり、必要なことはすべて映画から学んだ、みたいなことを喋っていた。
私も学がそんなにあるほうではないので、淀川さんのその言葉に感銘を受けて映画を沢山観てきた。
が、人生も中盤に差し掛かった今、かつて観た映画の教訓が、ボディーブローのようにじわじわと効いてきているのか、効いてきていないのか、実際のところよくわからないんです。
どうなんでしょう、淀川さん、と、ここまで書いて気付いた。
冒頭で、単刀直入にいうべき内容を間違えている。
私は、レネー・ゼルウィガーや淀川さんについて単刀直入に語りたかった訳ではなく、スポーツ選手のエージェント、代理人、何の代理? ということについて少しく語りたかったのである。
エージェント?
映画に出てくるエージェントという職業は、スポーツ選手にまつわる契約ごと、例えばチームとの契約や、CM出演契約においての好条件を取りまとめる交渉人という役どころである。
アメフト選手に限らず、メジャーリーグベースボールやNBAなんかの選手もエージェントが介在していたりする。
日本の野球選手がメジャー挑戦する際に活躍した団野村氏やアーン・テレム氏といった名前を覚えている方も多いはず。最近では大谷翔平選手がメジャーへ移籍する運びとなり、代理人ネズ・バレロ氏という人の名前が挙がった。
この契約交渉の代理人という立場は、日本では、プロダクションだったり、或いは選手のマネジメント会社やマネージャーという言葉に置き換わったりするので少しややこしいが、芸能人のケースであればなんとなくは知られているかと思う。
芸能人の場合、マネジメント、マネージャーの役割といえば、契約事に加え、スケジュールの管理、どのようにキャラクターを売り出していくかという方針を元に仕事を取ってきたり、将来的な展開を見据えつつ仕事を選ぶ、その他、担当芸能人の雑務をこなしたり、という役割である。
スポーツエージェントの場合は、主に金銭が絡んだ契約交渉に特化する。
大きな契約をまとめれば、エージェントの収入にも直結するため、選手との距離感も親密というよりはビジネスライクであり、時には冷酷に選手を突き放す場合もある。
選手=金のなる木。
これに異を唱えるのが、この映画の主人公、トム・クルーズ演じるジェリー・マグワイアである。
ジェリーは、サブの主人公、キューバグッティングJr.が演じる中堅のアメフト選手、ロッドのエージェントとして奔走することになる。
ロッドはポップで憎めないキャラクターではあるのだが、ハナから勘違いをしている。
中堅の地味な選手であるにもかかわらず、オレにはその価値がある、デカい契約をもぎ取って来い、とジェリー・マグワイアに無理難題を押し付けるのである。
いや、実際NFLの選手になるだけでもスゴいのよ、スゴいんだけど、ロッドよりも更にその上のステージで活躍する選手たちが沢山いて、現実にはマーケットではさして必要とされていない選手、興味を持たれていない選手、それがロッドの役どころ。
なんとしてもビッグな契約が欲しいロッドと、ロッドのために奔走するジェリー。
この二人の友情を軸に、スポーツ選手の契約事の内幕を描きながら、ロッドの望む契約を勝ち取り、最終的にジェリーは自分にとって本当に大事なものは何なのかに気付いていく、というストーリー。
ま、結局のところ、レネーが一番大事、と思ってしまうところが、この映画の罠である。
ダーツ選手のエージェント、要不要?
日本のダーツ界を見渡してみるとどうか。
今やプロダーツ選手の数は、星の数ほどとまではいかないが、非常に多い。
しかし、エージェントやエージェント役のマネージャーがついている選手というのはかなり少ない。
とある人気ダーツ選手は、自分でスケジュールの管理をしているので、一度だけイベントのダブルブッキングをして青ざめたことがある、と言っていた。
イベント出演依頼の受付やスケジュール管理といった営業面、試合に出る場合の移動手段やホテルの予約、稼いだお金の税務処理に加え、炊事、洗濯、掃除といった家事、子育て、家族サービス、ペットのお世話、美容室の予約に歯医者の予約に人間ドックの予約、ほけんの窓口、不動産投資、ビットコイン投資、老後の計画、エトセトラエトセトラ。
すべてを自分でこなして、尚且つ試合では好成績を残す。
自分がもし選手だったらゼッタイ無理である。
日々の雑務に追われて、とても試合どころではない。
ある程度、成績を残すようになり、人気も出てきたな、と感じたら、マネージャーをつけるなり、税理士なり家政士なりに頼むなり、第三者の協力を仰いで選手生活を歩んでいくのが楽ちんである。
なお、選手にとってのデメリット(?)もあるので、ご注意を。
当然だがエージェントやマネージャーはボランティアではないので、自分の収入の中からギャランティを支払わなければならない。
このギャランティの金額について、双方折り合いがついていれば問題はない。
しかし、つい最近も『ああだこうだ理由をつけてギャラを一切支払わない芸能マネジメント会社がアイドルに訴えられた』みたいなニュースがあった通り、どの業界にも、悪徳マネジメント、悪徳マネージャーというのがいるはずなので、これに引っかからないようにしなければならない。
人気やお金の匂いに乗じて近付いてくる怪しげな人たちを、見極める目が必要になってくる。
もし選ぶなら、映画のように、選手とエージェント、お互いの信頼があり、時には親密に、時にはドライに、双方ともWINWINでビジネスを円滑に進めていける、共に成長していける第三者、というのがベストでしょう。
最後に、上記の素晴らしい関係性の一例として、女子のトップ選手の一人でもある鈴木未来選手の旦那さんのブログを許可なくのっけとく。
http://mirai-no-sodatekata.bl…
旦那さんは奥さんのマネジメントをしてるわけじゃないんですが、奥さんが活躍するためにも、ものすごく色々なことを勉強しており、こういった家族の協力があって未来選手の今の活躍なんだなあ、と思うこと然り。